サンスクリット ― 音読のための基礎文法

注:このページの記述の多くは、これらの参考文献や辞典に拠っています。

大歓喜トップ >>  >>  >> 

-āya〔-a語幹単数為格〕

為格については、既に複数両数について、代表的な語尾を説明した。サンスクリットの名詞・形容詞に8種類ある「格」のうち、「~に/のために」といった意味を持つ格である。このページは、為格単数について述べる1ページ目となる。

これまでに、他の格を含めて、サンスクリットの格変化語尾を4種類説明してきた。これまでに説明した、-bhis (-bhiḥ)-bhyas (-bhyaḥ)-bhyām-su (-ṣu) の4種類の格変化語尾は、それぞれの役割(数・格)を、殆ど、または完全に、独占するものであった。「『何数何格』といえば、大抵この語尾」という関係にある語尾であった。

しかし、今回の-āyaはそうではない。単数為格の重要な語尾というのは多数あって、そのうちの代表的な1つというのに過ぎないのである。-āya だけではなく、これから説明する格語尾のほとんどが、そういう競合関係を持つ語尾になる。おしなべて、単数形の格変化語尾や、主格・呼格・対格(※これらの格の働きは、別のページで説明する)の語尾は、名詞の語幹のタイプや性(中性・男性・女性)による違いが大きく、何種類ものパターンを覚えなくてはならない。単数為格の場合も、他に -āyai、-aye、-ave、-ai、-ne、-e、-smai、-syai と、合計で大きく9種類の語尾を覚え、さらに残る例外を幾つか覚えることになる。9種類を包括するイメージは、-e, で持っておくのが良い。しかしまた、これらの形の多くは、動詞でも別な意味を持って使われるもので、名詞・形容詞においても、単数処格・単数呼格・両数主/呼/対格ともイメージが一部重なる。つまりそれだけ、文中での見分けに修練が要るのである。

-āyaは、見分けやすさや出現頻度の観点から、9種類の中の筆頭格である。

-āyaという語尾は、単数為格を表す。⇒『~に/のために』

単数為格は、実によく耳にする。祈願によく使われる、″namas (namaḥ)″ や "svasti"といった単語が、「誰それに」という為格の形を要求するからである。

その中でも、-āya は、例えば「サティヤ・サイババの108の御名」(Bhagavān-Śrī-Satya-Sāyi-Bābā Aṣṭottaraśata Nāmāvalī /「ヴェーダテキスト1」サティヤ サイ出版協会 p.109ー124) では、108のうちで実に82を占めるほど、ありふれた語形なのである。

-a語幹と付けているのは、名詞・形容詞のタイプのことである。語尾を付ける前の語形のことを、語幹と呼ぶ。語幹がどんな形をしているかや、どんな役割を果たすかで、「○○語幹」というタイプ分けがいろいろとある。「-a語幹」というのは、名詞・形容詞で、語幹の末尾が -a, で終わるタイプの語幹、という意味である。名詞・形容詞の中では、-a語幹の単語が最も多く、その性は、男性または中性である。

oṁ namaḥ śivāya |

この引用のマントラでは、śivāyaが、今取り上げている単数為格の-āyaである。これがそうと分かるのは、-āya という語形と、直前の namaḥ が為格を要求しているからだけではなく、śiva という-a語幹の名詞があって、それが帰依されるのにふさわしい呼称であると知っているからである。

同じように、-a で終わる名詞は、語尾を -āya にすることによって、単数為格を作ることができる。

deva ⇒ devāya

rudra ⇒ rudrāya

īśvara ⇒ īśvarāya

kubera ⇒ kuberāya

gaṇeśa ⇒ gaṇeśāya

bhāskara ⇒ bhāskarāya

vāsudeva ⇒ vāsudevāya

nārāyaṇa ⇒ nārāyaṇāya

kātyāyana ⇒ kātyāyanāya

suvarṇapakṣa ⇒ suvarṇapakṣāya

bhāradvājarṣigotra ⇒ bhāradvājarṣigotrāya

このように、ごく短く単純な単語でも、長めの複合語でも同様である。

但し、-a語幹と紛らわしい語幹が結構あるので、数種類例を挙げておこう。

語幹形や主格形を何となくで覚えていると、このような語幹の単語で勘違いすることがある。

※ -ā語幹

・ durgā(ドゥルガー) ⇒ durgāyai(※ 女性名詞の例)

・ gopā(牛を守る者) ⇒ gope(※ 動詞語根が後半に付く複合語の例)

※ -ṛ語幹

・ pitṛ(父) ⇒ pitā(※ 単数主格) ⇒ pitre(※ 単数為格)

※ -an語幹

・ rājan(王) ⇒ rājā(※ 単数主格) ⇒ rājñe(※ 単数為格)

※ -man語幹

・ brahman(ブラフマー) ⇒ brahmā(※ 単数主格) ⇒ brahmaṇe(※ 単数為格)

また、別の出典を見てみよう。

oṁ premātmanāya vidmahe | hiraṇyagarbhāya dhīmahi |
tannaḥ satyaḥ pracodayāt || Sāyi Hiraṇyagarbha Gāyatrī /「ヴェーダテキスト1」サティヤ サイ出版協会 p.100

これは、ガーヤトリー(gāyatrī)という韻文形式に従おうとした(けれども1箇所字余りのある)句である。その中でも、決まった形に語句を配置した極めて定型性の強い表現と分析できる。その定型とは、

[為格・5音節] vidmahe | [為格・5音節] dhīmahi |

tannaḥ(/-o) [単数主格・2音節] pracodayāt ||

という形であるということが、同様の句の比較から分析できる。tannaḥ というのは tat + naḥ の2語であるから、この短い詩形の中で、5単語12音節を固定し、残り半分の12音節だけを数や格の限定された中で入れ替えていくというパターンである。

動詞 vidmahe と dhīmahi の主語は、文法的に一人称複数(私たち)。 naḥ も一人称複数(ここでは為格:私たちに/~のために)で、句全体を通じた一方の当事者は一人称複数である。他方で、もう一つの動詞 pracodayāt の主語は三人称単数。空白を埋める主格の単語は、それに呼応した単数形。残る為格の2語も通常単数であるから、もう一方の当事者は三人称単数である。単数の聖なる存在に、複数の人間である我々が祈る、という全体の構図が見て取れる。

動詞 vidmahe の語根は√vid。「知る」などの意味である。この単語で「知る」対象は、通常は対格(~を)か属格(~について)を使う。もし対格二つなら、「~を~であるものとして知る」の意味である。語尾自体に為格のニュアンスも含まれていて、ここでは「私たち自身のために」である。この文脈で対格や属格の代わりにもう一つ対象に関わる為格が来るのは、どうやら、知る対象が遠い目標であることを示しているようである。

動詞 dhīmahi は、本来、語根√dhā(据える・置く・心を定める)の指令法(アオリスト接続法)であるが、後の誤用によって、語根√dhī(考える・省みる)の願望法だ、と見なされるようになったとされている。ここでは通常、「~を~に据える」の「~に」の方に、処格または為格を用いるところである。関係して、「信じる」を意味する śrad√dhā は √dhā を含む複合語であるが、信じる対象を為格に置く。即ち、ここでは、「〔心を〕~に据える」といった表現になるところを「心を」を省略し、「~に」を為格に置いていると考えられる。

premātmanāya という単数為格からは、premātmanaという語幹が復元される。preman(愛)と ātman(自我)による複合語であることは、容易に推測できることだろう。韻律上の音節数(5音節)を満たすためだけなのか、他にも事情があるのか、普通なら premātman(単数為格:premātmane)か premātma(単数為格:premātmāya)となるはずのところ、わざわざこの形にされている。

他方、hiraṇyagarbha(黄金の胎児)のほうは、典拠的にも文法的にも申し分ないのであるが、韻律上はといえば、1音節過剰になっている。5音節が望まれるところ、6音節になっているのである。

●次のコンテンツへ ⇒

▲ このページのトップへ戻る


Q. 語幹はともかく、語根って何?

A. 何種類かの語幹を生み出すさらに大元の、単語の意味の中核になる音の部分です。サンスクリットでは、例えば動詞の語根から、「現在語幹」「アオリスト語幹」「完了語幹」などの様々な語幹を派生させ、それにさらに活用語尾や加増音を付けて使用します。動詞を辞書で引くには、語根の形に直す必要があります。

Q. 音節って何でしたっけ?

A. 母音一つを中心に、その母音だけか、前後に子音が続いた、音声の聞こえの単位の一つです。i, na, as, vah, sva, tvaṃ, など、いずれもサンスクリットでありうる音節です。

言語によって、どんな音が音節主音(音節の核になる音)になれるかが、少しずつ違います。サンスクリットでは、r, や l, も音節主音になれる上に、伝統的な文字表記でも音節主音になったときは母音として扱っているので、学習上もそれらを母音と扱います。

言語学の研究によると、世界には、流音(r, l,)や鼻音(n, m,)はもちろんのこと、摩擦音(s,など)や破裂音(g, d, b,など)まで音節主音になりうる言語も存在するとされます。

詩の形である韻律(いんりつ)を理解するには、音節の長さや、軽重の概念が必要ですが、詳しくはまた別の機会に申し述べます。

●次のコンテンツへ ⇒

▲ このページのトップへ戻る


(最終更新2013.8.31)

大歓喜トップ >>  >>  >>