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拡張移動サ音度名唱-はじめに

音楽の代名詞のように使われている「ドレミ」の代わりに、こんな音節を使ってみたら面白いよ、便利なこともあるよ、というのがこのコーナー「拡張移動サ音度名唱」の趣旨である。能書きなんか短く済ませてよ、という方は、すぐに次のページをお読みいただきたい。

そもそも、このコーナータイトルの「拡張移動サ」とは、私の造語である。「音度名唱」の方も滅多に使われないが、聞いたことはなくても、文字面からお分かりいただけるかもしれない。

「拡張移動サ音度名唱」とは、「移動ド」「固定ド」などと呼ばれるドレミの唱法と類似した、けれども聞こえも原理も異なる別の唱法の呼び名である。それは私が独自に工夫・拡張し、自分自身で、主要な唱法として実践している仕組みである。拡張の元になった原型は、インド古典音楽の「サルガム」或いは「サレガマ」と呼ばれる唱法であり、その楽典である。

インド音楽の唱法でドレミの「ド」に対応するもの、第一音が「サ」であり、その「サ」が音高・音名に対して移動することから、「移動ド」「固定ド」と対比する形で「移動サ」と名付けた。そして、ここで述べるものは、他の音楽にも広く適用できるよう、私独自の拡張を加えたので、「拡張移動サ」としたのである。

インドの唱法は、「音度名唱」である(註1)。「音度名唱」というのは、「階名唱」や「音名唱」との対照である。どんな種類の音階に乗った、どんな歌い回しの旋法であれ、その主音を「サ」とし、残りの構成音にそれぞれふさわしい名前を割り当てて歌う唱法で、西洋音楽のいわゆる長調・短調の音階システムとは、やや異なった旋法理解を前提にしている。

利点は何かということであるが、何らかの調性のある旋律に関しては、通常のドレミに乗らない型でも、常に主音を明確にして聞きとったり演奏できるということが一つ。そして、主に相対音感に頼る人たちにとって、短二度の連続(半音階)や増二度に対する違和感・恐怖感が、一定程度減少するというのがもう一つである。少なくとも、音楽の得意不得意に関する意識に、何らかの変化は起こると言える。

さらに、本質からはやや外れるが、周囲が「移動ド」「固定ド」のいずれを使っていようが、干渉せずに唱法を実践できるという利点がある。これは、音名と階名の用法が混乱している日本ならではの利点である。

五線譜を読んで音を取ることに関しては、利点はあまりない。もともとが、五線譜を使わない、ヨーロッパの音階を標準としない音楽世界の唱法から拡張したものであるから、五線譜に書かれた音楽にも当然適用できるものの、特に五線譜に適合しているわけではないのである。ましてや、比較的易しいクラシック音楽の読み取りに対しては、冗長で不利な点も多い。初見視唱の速さを競った場合、「移動ド」や「固定ド」より明らかに不利である。

しかし、長調と短調を基本的な枠組みとして音楽を捉える仕組みと較べると、明らかにそれとは違う視点を提供してくれる。それこそが、拡張移動サの最も大事な点である。音楽教育に成果とともに無用の混乱と争いをもたらした「固定ド」音名唱への一種のアンチテーゼであり、12平均律を普及させた近現代標準音楽とは別の視点からの対称性と合理性の追求である。

ここでは、拡張移動サ音度名の種類と構造について説明しつつ、既にある程度、ヨーロッパ系音楽の知識と経験がある上に、どうやって拡張移動サ音度名唱を付け加えていくかについて述べる。仕組みの全体像を一覧するには、「「拡張移動サ」音度名表」をご一読いただくと良いであろう。


註1)ラーガ音楽が発展する前の古代には階名唱であったと思われる。(戻る)

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