声楽と音度名唱

 ※音度名唱「拡張移動サ」の全体を概観するには、拡張移動サ音度名表をご覧ください。

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移動サの用語集:ラ行

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ラーガ(らーが:rāga)

インド古典音楽の旋律型のシステム。周期性の音階に、音度のみならず、各構成音の役割・重要性、上昇下降時の屈曲の有無やあり方、フレーズ(楽句)の開始・休止の仕方、各音のアーティキュレーションや装飾、さらには特徴的な旋律単位なども定めた、詳細な旋法。こうした演奏自体の詳細な規定だけでなく、北インド(ヒンドゥスターニー)古典音楽では、演奏に相応しい時間帯といった、周辺状況についての規定もある。それぞれに固有のラサ(情趣)を持ち、演奏において表出されなくてはならないとされる。

語源的には、「彩(いろど)られる」を原義とし、「喜ぶ」の意味も持つ、√Raj / √Rañj に基づき、「彩り」「(音楽の)楽しみ」を意味する。旋法の規定のレベルが詳細にわたる点において、メーラとは明確に区別される概念である。主な伝統的な漢訳語の一つに「染」があることから、旋法一般から区別して訳すとすれば、「音楽の彩り方」の意味で「染楽法(せんがくほう)」とすることを提案する。

ラーガの総数を正確に数えることは不可能である。なぜなら、ラーガは音楽家が創出・考案できるものであるし、どこまで違えば別のラーガになるのかにも明確な基準はない。楽派や地域によって、同じラーガを別の名前で呼んだり、同じ名前で明らかに異なるバリエーションがあったりもする。そしてまた、記録が残らず、受け継がれずに忘れ去られていくラーガもあるからである。例えばジャヤデーヴァの作になる古典『ギータ=ゴーヴィンダ』も、ラーガ名が各詩に付されているが、作出当時の歌われ方がどのようであったかは分からない。しかし、通説によれば、ラーガの総数は3,000種以上で、そのうち一般に知られているものは300種程度、個々の演奏家がレパートリーとするのは数十種程度と言われている。

ラウドリー(らうどりー:raudrī)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に8番目の音程。原義は「ルドラ神に関わる」の女性形。

音程幅は学説により、約21.5¢または約70.7¢。ジャーティは、ディープター。

ラクター(らくたー:raktā)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に15番目の音程。原義は「赤い」または「美しい」の女性形。

音程幅は学説により、約21.5¢または約58.5¢。ジャーティは、マディヤー。

ラクティカー(らくてぃかー:raktikā)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に7番目の音程。原義は「赤い」または「美しい」の女性形。

音程幅は学説により、約70.7¢または約65.3¢。ジャーティは、ムリドゥ。

ラサ(らさ:rasa)

「情趣」などと訳されるインド芸術論の用語で、芸術の味わいのこと。

原義は(植物や果実の)「汁」である。文脈により、「甘味・酸味・塩味」などの味の種類を意味することもあり、「精髄・エッセンス」を意味することもある。

芸術論の中では、バーヴァ(bhāva:感情・情緒やその身体的表れ)の様々な組合せから生み出されるものとされ、9種類(または8種類や10種類)に分類される。芸術はラサを具現するべきものであり、音楽におけるラーガもそれぞれ特有のラサを持っているとされる。ラサをもたらすバーヴァは、音楽の3要素を数える際にはその1つに挙げられる(他の2つはラーガとターラ)。バーヴァを伝える手段が、アビナヤ(abhinaya:表現)である。

9種類のラサ(ナヴァ・ラサ:nava-rasa)とは即ち、シュリンガーラ(性愛・恋情:śṛṅgāra)・ハースィヤ(笑い・滑稽:hāsya)・カルナー(悲哀・憐憫:karuṇā)・ラウドラ(憤怒・凶暴:raudra)・ヴィーラ(勇猛・強健:vīra)・バヤーナカ(恐怖・心配:bhayānaka)・アドブタ(驚き・奇異・不思議:adbhuta)・シャーンタ(平穏・安らぎ:śānta)である。8種類とするときは、シャーンタが除かれ、10種類とするときは、ヴァートサリヤ(慈愛・優しさ:vātsalya)が加わる。

ラミヤー(らみやー:ramyā)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に20番目の音程。原義は「喜ばしい・愛らしい」の女性形。

音程幅は学説により、約70.7¢または約56.7¢。ジャーティは、マディヤー。

ランジャニー(らんじゃにー:rañjanī)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に6番目の音程。原義は「彩(いろど)る」または「喜ばせる」の女性形。

音程幅は学説により、約41.1¢または約67.9¢。ジャーティは、マディヤー。

リシャバ(りしゃば:ṛṣabha)

インドの伝統によるⅱ度音の音度名。「リ(R)=スヴァラ」。スヴァラの一つ。

これは「牡牛」を意味する言葉で、「牡牛の鳴き声に高さが似ていたから」という伝承説もある。またこの言葉は、半ば比喩的に「(~の中で)最上のもの」を意味するため、主音の上に来る音(上主音)を意味するのに相応しい。漢訳では「神仙」とも。

リディア旋法(りでぃあ・せんぽう:Lydian mode)

ヨーロッパ音楽の旋法名。リューディア旋法。リディアン。

教会旋法名としては、「第Ⅴ旋法」または「正格トリトゥス(tritus authentus)」と呼ぶ方がより正式で、ドレミでは「ファソラシドレミファ」でファが主音・ドが軸音、拡張移動サでは「サリグミパディヌ」と表記できる。

古代ギリシアで用いられた名称としては、ドレミでは「ドレミファソラシド」、拡張移動サでは「サリグマパディヌ」、教会旋法でイオニア旋法と呼ばれるものに相当する。

なお、古典ギリシア語及び古典ラテン語では、'y'の母音は円唇前舌母音であったが、教会旋法命名当時の中世ラテン語では'i'と混同されていた。また、古典ギリシア語及び古典ラテン語では、語頭の音節'Ly-'の母音'y'は長母音であったが、中世ラテン語では、母音の長短による語の区別は失われていた。

リミット(りみっと:prime-limit)

広義の純正律について、特定の音律の構成音間の周波数比〔振動数比〕の両辺の数字の素因数となる素数のうちで、最大のもの。その数値がnであれば、その音律をnリミットの純正律と呼ぶ。

ピタゴラス律は素数2と3のみを使うので3リミット、「完全純正律」は素数2と3と5を使うので5リミットの純正律である。加えて素数7も、古代からギリシアを初めとして各地で広く用いられ、中東では素数11や、それ以上の数を用いる音律があった。

実は、素数7を使う周波数比〔振動数比〕7:8の音程は、開放弦に対し、ちょうど3オクターヴ上を取った弦長の残りの弦に相当するため、ごく簡単な操作で割り出すことができる。素数11を使った11:12も同様に、3オクターヴと完全五度上に対する裏である。それぞれ倍音(7倍音・11倍音)としても、低音の弦を鳴らしたときに、十分可聴域に入る音高にある。だから素数7以上を使う音律も、決して、奇妙な趣味や計算の遊びではなく、音楽的に自然で有効なものだと言える。

琉球類(りゅうきゅうるい)

調の構造で分析した場合の、琉球列島の民謡で最も多用されている音階の呼称。日本民謡における4種の基本音階の一つであるが、分布が琉球列島に殆ど限定され、著しい特徴となっている。また、琉球列島で2番目に多く用いられている音階は陽類であり、陰類・混合類は稀である。

代表旋法となる「サリグマパヌ」の形が最も旋律の安定性が高く、多用されている。2番目に用いられている旋法は、「サリミパディヌ」の形。導音を欠く「サグマパディ二」「サラギパダニ」の旋法がそれに次ぎ、加えて「パ」を持たない「サリギマディニ」や「サラギマポダ」の旋法は、さらに稀である。

亮音唱(りょうおんしょう)

よく鳴り響き歌いやすい、母音やそれと鼻音や流音を組み合わせた、適切な音節を用いる代音唱法

(るい:genus)

ディアトニッククロマティックエンハーモニックといった、特徴ある音型の種類。

元来、古代ギリシア音楽の用語であり、完全四度音程をどう区切るかの種類の名前であった。長二度(全音)が並ぶもの、短二度(半音)が並ぶもの、縮短二度(四分音)が並ぶものという区別からの命名である。それが、その四度音列を積み重ねた音階の種類を表すにも用いられた。

「~類」と呼ぶ場合には、さらにそれを一般化して、東アジア・南アジアや中東などヨーロッパ文化圏外の、音列や音階の種類をも指して言う。アンガの各種類を述べていることを示すのに「~類」を付けたり、日本の陽旋法の音階を「陽類」と表記したりする。

主として、使う音程の種類や並びによる色合いの違いに焦点が当てられ、とりわけ「主音がどこか」といったことには関係せずに用いられる。

累畳重-(るいじょうじゅう-:(quadruply-))

拡張移動サにおける音程の接頭辞。

「増」や「減」の前に冠し、それらより更に、半音3つ分、拡がったり狭まった音程を表す。例えば、「増二度」が半音3つ分相当の広さであるのに対し、「累畳重増二度」は、半音6つ分相当の広さの音程を表す。

(※「累畳重増二度」は西洋式の標準の楽典では登場しないが、ドイツ式音名で言えば、例えば「Ceses - Disis」間・「Deses - Eisis」間などである。拡張移動サでは、ディアトニック音階を基準としないため、このような、低い方の音に重変記号・高い方の音に重嬰記号の付いた音程も「自然なもの」として使われる。)

ローヒニー(ろーひにー:rohinī)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に19番目の音程。原義は「喜ばしい・愛らしい」の女性形。

音程幅は学説により、約41.1¢または約55.0¢。ジャーティは、アーヤター。

ロクリア旋法(ろくりあ・せんぽう:Locrian mode)

ヨーロッパ音楽の旋法名。ロクリアン。

完全五度と完全四度に分割できないため、楽曲の展開が困難とみなされ、正式な教会旋法としては採用されなかった。ドレミでは「シドレミファソラシ」でシが主音・ファが軸音、拡張移動サでは「サラギマポダニ」と表記できる。

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(最終更新2012.6.9)

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