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入門的な12の音度名
「拡張移動サ」は、「移動ド」や「固定ド」などと同じく、音符に音節を当てはめて歌って、音楽を学ぶ助けにするためのものである。但し、中世ヨーロッパ起源の「ドレミ」の代わりに、古代インド起源の「サルガム」の系統の音節を使う。これは、日本語母語話者の多くにとって、十分に発音しやすく聞き分けやすい音節であって、慣れによってドレミと同等以上に使いこなすことができる。
「拡張移動サ」の音節は、他の音楽にも広く適用できるよう、私独自の拡張を加えた結果として、全体としては極めて多数ある。しかし、最初に学ぶべき~概ね一般的な小学生を想定しているが~音節は多くない。ピアノの1オクターヴは12個の半音を周期としているが、それに相当する12個、さらに絞るならば10個を、まず学べば良いのである。これら自体は、南インド古典音楽学習用の16個の音度名の一部であり、私のオリジナルではない。
基準音 | +1 | +2 | +3 | +4 | +5 | +6 | +7 | +8 | +9 | +10 | +11 |
サ | ラ | リ | ギ | グ | マ | ミ | パ | ダ | ディ | ニ | ヌ |
上の表(註1)は、「拡張移動サ」の最も入門的な12の音節を並べたものである。
ピアノの鍵盤と同じく、左が低く、右が高い。上の行にある+幾つ、という数値は、「サ」(=主音/キー)から半音幾つ分上の音か、ということを表している。また、「サ」が仮に音名「C」(=「ハ」)の音であるとして、ピアノの黒鍵にあたる音度名の上のマスは黒地にしている。「+12」になれば、ちょうど1オクターヴ上の音であるから、再び「サ」に戻ってくる。
「サ」は常に、その音楽のキー(主音)を歌う。「○長調」「○短調」というときの、○にあたる高さの音を「サ」とする。移調や転調に伴って、「サ」はどんな高さの音にでもなり、残りの音節もセットになって、高低に移動する。
従って、長調(長音階)の上昇音型は、何長調でも「サリグマパディヌサ」と読む。上の表の白鍵部を左から右へ追ってみて欲しい。また、音階や旋法の上昇形を表すときには上向き矢印を置き、オクターヴ上や下の音を表すには、音節の上や下に水平線を書くことにするので、きちんと書くときは「↑サリグマパディヌサ」となる。
そこで、近現代音楽で基本的とされる音階・旋法を拡張移動サで書くと、次のようになる。
・長調(長音階):↑サリグマパディヌサ
・短調(自然短音階):↑サリギマパダニサ
・短調(和声的短音階):↑サリギマパダヌサ
・短調(旋律的短音階):↑サリギマパディヌサ↓サニダパマギリサ
以上を覚えれば、「移動ド階名唱」と似たような要領で、五線譜からその曲が何調であるかを読み取り、「移動サ」の音度名を各音符に振っていくことができる(註2)。ドレミと同じく、カタカナを音符の近くに書き込んでいってよい。(註3)
注意点は、「移動ド」ならば、長調か短調か分からなくとも振っていくことができるのに、「移動サ」ではその判別が必要なことだ。長調なら移動ドの「ド」が「サ」になり、短調なら「ラ」が「サ」になる。主音がどこかを読み取れば、「移動サ」は振り始めることができる。
「移動ド」と場合と同じく、転調があれば、音度名の「読み替え」を行う(註4)。例えば、属調に転調すれば、それまで「パ」と読んでいた音高が「サ」になるし、そうなれば自然と、「リ」と読んでいた音高が新たに「パ」となるわけだ。
但し、既に12個の音度名を習っているわけだから、必ずしも細かい部分転調ごとに一々読み替えを行う必要はなく、ある程度はそのまま半音単位で対応する音度名を読んでいくことができる。装飾的な半音進行の場合でも同じだ。例えば、属調に部分転調するので移動サの「マ」が半音上がる場合は、「ミ」と読めばよい。音度名唱なので、同主調(例えばハ長調とハ短調の関係)の場合は「サ」の位置は変わらず、「グ・ディ・ヌ」と「ギ・ダ・ニ」を使い分けることになる。
教会旋法への応用
やや悪趣味ながら、中世ヨーロッパのいわゆる教会旋法に対しても、この12個の入門的な音節で対処することが可能である。
・第1正格(ドリア):↑サリギマパディニサ
・第1変格(ヒュポドリア):↑パディニサリギマパ
・第2正格(フリギア):↑サラギマパダニサ
・第2変格(ヒュポフリギア):↑パダニサラギマパ
・第3正格(リディア):↑サリグミパディヌサ
・第3変格(ヒュポリディア):↑パディヌサリグミパ
・第4正格(ミクソリディア):↑サリグマパディニサ
・第4変格(ヒュポミクソリディア):↑パディニサリグマパ
この場合、「サ」は終止音を示している。従って上記の要領で、各旋法の使用音の音程関係、終止音の位置、そして終止音を基準とした相対的な音域を、端的に示すことができている。
5音音階への応用
東アジアでよく見られる5音音階の場合は、これまでに述べた7音の旋法から適宜音度名を省くことで対応できる。その代表的な例を示す。
・律音階:↑サリマパディサ
・民謡音階:↑サギマパニサ
・四七抜き長音階:↑サリグパディサ
・都節音階:↑サラマパダサ
・四七抜き短音階:↑サリギパダサ
・琉球音階:↑サグマパヌサ
まとめ
以上により、入門的な12の音節によって、多くの民謡・唱歌・ポップスに適用できる唱法を構成できることが説明できた。
世界的には古来、より少数派の特殊な旋法の音楽もあるし、複数の旋法を同時に鳴らす音楽もある。20世紀には、もっと調性を複雑にしたり、調性をなくした音楽も大いに発展した。しかし、多くの日本在住者が日常的に触れる音楽は、今なお、このページに挙げた音階・旋法を用いたものが多数を占めるであろう。従って、十分に実用の幅がある。
しかし、ちょっと装飾的な楽曲になれば、次の「基礎的な25の音度名」を使わなければ、音度名唱として嘘になる。入門が終われば、なるべく早く次の段階へ進んでいただければと思う。
註1)幅の狭いブラウザでは、お手数ですが横にスクロールしてください。(戻る)
註2)近現代音楽で基本的とされる音階・旋法に現れる音度名は、「サ・リ・ギ・グ・マ・パ・ダ・ディ・ニ・ヌ」の10個だけである。従って、拡張移動サの音度名表は膨大だが、この10個こそが、本当に常用される核となる音節だと言ってよい。この10個は、いずれも、ドレミの音節と重複しないから、これらを歌うことによって、移動ドや固定ドではなく移動サを歌っているのだと、常に自覚することができる。残る「ラ・ミ」は、少なくとも日本語母語話者の耳には、ドレミと重複する音節であるが、登場頻度が比較的少ないことと、「拡張移動サ」がシステマチックであるために、文脈が混乱することはない。この先の段階を進むと、残る「ド・レ・ファ・ソ・シ」及び「ティ」も、「拡張移動サ」の構成音節として登場してくる。(戻る)
註3)カタカナやアルファベットでは他の書き込みと紛らわしくて困るという場合には、インドの文字をもとに変形した表記を用いることもできる。但し、これらの読み書きに慣れることは概して負担が大きいから、あくまでオプションである。(戻る)
註4)読み替えは、できうる限り、前後の旋法に共通する音高の音で行う。その音の音度が、前後の旋法で異なる場合は、音度名の合成を行う。前の旋法での音度名の頭子音を、次の旋法での音度名の前に合成し、子音+子音+母音の形の音度名となる。(戻る)
(最終更新 )