声楽と音度名唱

 ※音度名唱「拡張移動サ」の全体を概観するには、拡張移動サ音度名表をご覧ください。

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移動サの用語集:ア行

ア行 | カ行 | サ行 | タ行 | ナ行 | ハ行 | マ行 | ヤ行 | ラ行 | ワ行 | 数字・記号

アーガントゥカ=スヴァラ(あーがんとぅかすゔぁら:āgantuka svara)

「迷い込んだ音」の意味。インド音楽の文脈で、本来その旋法からは排除されているのに、装飾のために臨時に入れられた音のこと。「遇来音(ぐうらいおん)」と訳すことを提案する。

音の役割・立場という点で、軸音補軸音順旋音違旋音などと対比できるが、各旋法の規定のなかであらかじめ決められていないことが大きく異なる。

アーラーピニー(あーらーぴにー:ālāpinī)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に17番目の音程。原義は「語りかける」の女性形。

音程幅は、約70.7¢。ジャーティは、カルナー。

アチャラ=スヴァラ(あちゃらすゔぁら:acala svara)

「動かない音」の意味。インド音楽の文脈で、「サ」と「パ」のこと。

主音「サ」が一曲の間変わらないインド音楽にあっては、「サ」からの音程はその演奏で使われる他の全ての音の音高の基準となる。また、「サ」から完全五度上である「パ」の音は、常に純正の五度音程(振動数比2:3)で取られ、インドの各種の音律音階においても決して変動することがない。従って「動かない音」である。

「サ‐パ」間の音程の規範はどんな場合も固定であるが、「サ‐パ」をセットにしたものの音高は、楽器の音域や歌い手の声域、演奏者の好みなどによって、演奏の都度、上下しうる。しかし、ある一つの演奏の中だけで見れば、「サ‐パ」セットの音高もまた理念として固定である。その他の音、例えば完全ⅳ度である「マ」などは、音律によって異なる音程をとることがある。

なお、インド音楽の枠組みにおいて、「サ」はあらゆるラーガで必須の音であるが、「パ」を含まないラーガというのは僅かながら実在する。それでも想定された音律上の音程は、純正の完全ⅴ度だということになっている。

アティ・コーマル(あてぃこーまる:ati-komal / ati-komala)

インド音楽で、「フラット=アンド=ア=ハーフ」のこと。「アティ」は「~を超えて・非常に」を意味する。サンスクリットの発音では、「アティ・コーマラ」と読む。

アランカーラ(あらんかーら:alaṃkāra)

「装飾」の意味。インド音楽における、旋律装飾技法の総称。多くの場合、既作曲も演奏時には、音楽的常識の範囲内で、演奏者による独自の装飾が施されることが許される。

主にアーティキュレーションや奏法など比較的楽譜に書かれにくいことに関わる「シャブダ=アランカーラ」と、各音度の音の短い歌い回しパターンといった、音符で比較的表現しやすいことに関わる「ヴァルナ=アランカーラ」に大別される。

ガマカは、前者シャブダ=アランカーラの一部である。ヴァルナ=アランカーラは、古典文献的には63種類の名が知られるが、事実としては無数にある。

アルダカラー(あるだからー:ardhakalā)

オクターヴを224に分割した音程の単位。「アルダ」は「半分」の意で、1カラーの半分の音程を意味するが、実際には半分よりやや狭い。単位記号はакを書く。

理論上基本的な音程である、「7の減三度」(振動数比7:8)を、整数値43акとして表すことができる。1акのセント値は、等分として約5.357¢であり、音律的な差異としても耳で聞き分ける限界にほぼ相当する。例えば、しばしば調律の基準とされる音高440Hz付近では、1ак≒1.36Hz程度であり、両音を同時に鳴らした時の「うなり」として聴き取るのがやっとである。インド古典音楽を構成する微分音程シュルティは、「聞きとれる音程」の意味を持つが、そのシュルティの平均音程の10分の1弱に相当する。

基準音程マートラーに対する各模式値は以下の通り。 [D] =224ак、 [Q] =93ак、 [O] =43ак、 [U] =28ак、 [S] =21ак、 [W] =約10ак。これらを全て整数値で模式化できるところが、カラーとの違いである。大全音と小全音の差は、4ак。

アンガ(あんが:aṅga)(1)

音階旋法を構成する、部品・構成要素としての音列。本来、サンスクリットで「肢・手足」を意味し、そこから一般に「部分」を意味するようになったもので、訳して「支列(しれつ)」とする。

原則として、完全四度または完全五度の音程の中に、3個から6個の音階構成音ないしは音度を含む。12半音単位7音構成のヴァラヤ66種は、全てこのアンガに分解可能である。

基本的な組み立ては、「完全四度+長二度+完全四度」「長二度+完全四度+完全四度」「完全四度+完全四度+長二度」「完全五度+完全四度」「完全四度+完全五度」の5パターンだが、当てはまらなくても音楽的に成立する旋法はある。

また、半音単位で完全四度幅の四音のアンガは、6通りあり、よく用いられる。内訳は「短二度+長二度+長二度」「長二度+短二度+長二度」「長二度+長二度+短二度」の3つのディアトニック系と、「短二度+短二度+増二度」「短二度+増二度+短二度」「増二度+短二度+短二度」の3つのクロマティック系である。

四分音単位で完全四度幅の四音のアンガ(※即ちエンハーモニック系まで含む)は、36通り。同様に四分音単位で完全五度幅の五音のアンガで、音階構成上意味のあるものは、214通りである。

アンガ(あんが:aṅga)(2)

南インド古典音楽で、「ターラ(拍節法)」に基づくリズム周期を構成する、各部分(=節)のこと。強拍または中強拍のあとに、0個以上の弱拍が続く各部分のことで、長さは1単位から9単位分のものまである。この長さの単位を「アクシャラ」(或いは北インド古典音楽では「マートラー」)と呼ぶ。

1アクシャラのアンガを「アヌドゥルタ」、2アクシャラのアンガを「ドゥルタ」、3アクシャラ以上の長さのアンガを「ラグ」と呼ぶ。

イオニア旋法(いおにあ・せんぽう:Ionian mode)

ヨーロッパ音楽の旋法名。イオーニア旋法。イオニアン。アイオニアン。

教会旋法名としては、「第Ⅺ旋法」と呼ぶ方がより正式で、ドレミでは「ドレミファソラシド」でドが主音・ソが軸音、拡張移動サでは「サリグマパディヌ」と表記できる。ルネサンス期に正式に追加された旋法の一つ。

なお、古典ギリシア語及び古典ラテン語では、'Io~'の'o'の母音は長母音であったが、教会旋法命名当時の中世ラテン語では、母音の長短による語の区別は失われていた。

移均(いきん)

対象となるフレーズ(楽句)または楽曲全体に関して、音階全体を高低に移すこと。

移高(いこう)

音列全体を高低に移すこと。

例えば、音名でニ音を下のパルヴァンとするアンガを、イ音を下のパルヴァンとする位置に移す場合など。また、無声調音楽の音列一式を、半音上に移す場合など。

移旋(いせん)

フレーズ(楽句)または楽曲の構成音度数はそのままで、主音を変えずに旋法を変えること。

例えば、ハ長調の楽曲をハ短調で演奏するなど。

違旋音(いせんおん:vivādī)

特定の旋法に対して、そこに混じると雰囲気を急激に変え流れを断ち切ってしまう音。旋法の敵。ヴィヴァ―ディー。旋法の構成音の役割の一つ。

演音軸音)・副演音補軸音)・順旋音と組になった概念。

移調(いちょう:transposition)

旋法または楽曲全体の音程関係はそのままで、音高を変えること。

例えば、ハ長調の楽曲を変ホ長調で演奏するなど。

なお、楽曲や演奏の途中で他の調へ移る場合は、「転調」と呼ぶ。

移動サ(いどうさ)

インド古典音楽のサルガムを他の音楽にも応用した音度名唱

移動ド(いどうど:movable do)

ドレミ階名として使ったソルフェージュが変わるごとに音高とドレミの関係が移動することから、そう呼ばれる。例えばハ長調では「ハ」音が「ド」であるが、ト長調では「ト」音が「ド」になる。

インド古典音楽(いんどこてんおんがく:Indian classical music)

南アジアの古代から近世にかけて展開した伝統音楽の総称。「インド」と冠するが、今のインド共和国の領域には限定されない。近現代の映画音楽・ポップス等に対して、また、ヨーロッパや中国など他の文化圏の古典音楽に対して言う。狭義には素朴な民謡等を含まず、儀礼と一体化した宗教音楽(各ヴェーダの詠唱等)も除外することがある。

伝統の大きな分類として、ヒンドゥスターニー音楽とカルナータカ音楽に分けられる。カルナータカ音楽は、南インド古典音楽とも称し、主にドラヴィダ系諸民族の住むインド亜大陸南部の音楽体系。ヒンドゥスターニー音楽は、北インド古典音楽とも称し、主にインド=アーリア系諸民族の住む亜大陸中北部の音楽体系で、その主なジャンルとしてはカヤール(ハヤール)とドゥルパドがある。ヒンドゥスターニー音楽のほうが、ペルシアや中央アジアの音楽からの影響を強く受けている。楽典用語は、各地の言語によって単語や発音が少しずつ異なるものが多い。

両体系は中世以降に分化したとされるが、いずれも、旋律の作法であるラーガ(rāga:ラーグとも)と、リズム周期の作法であるターラ(tāla:タールとも)を重要な要素として体系化しており、また、それら旋律やリズムのための楽器とは別に、特にドローン(通奏音)を演奏するための楽器もあることが共通する。

また、古代において、オクターヴ(サプタカと呼ぶ)を22分割する音律が標準とされ、現代でも厳密にはオクターヴあたり5種類22個の微分音の積み重ね(種類の順序の交替もある)で音程を捉えるが、簡便と通じやすさのためにオクターヴ12分割の図式化に則った表現も共通して用いられる。ヨーロッパと同じく、七音音階が標準で、古代から七音セットの階名・音度名(サ・リ(レ)・ガ・マ・パ・ダ・ニ)が用いられてきた。数え方にも依るが、それらの名称は、ヨーロッパのドレミよりも、少なくとも千年以上古くからの伝統を持ち、これも両体系共通である。

音楽の三大要素としては、ヨーロッパにおけるリズム・メロディー・ハーモニーに対し、バーヴァ(bhāva:バーオとも)・ラーガ・ターラを数える。バーヴァとは、言葉を含む様々なレベルでの情緒・情趣、及びその表出のことである。バーヴァは他の芸術分野とも共通した要素であるが、この三大要素を数える際には、最も根本的で重要なもので、ラサ(芸術的味わい)がもたらされるために必須とされる。両体系ともに、実用上では数百のラーガを用い、百余りのターラを持つ。

芸術分野を64種に分ける伝統的な分類では、声楽・器楽・舞踊はそれぞれ別々の種に数えられる。

陰類(いんるい)

調の構造で分析した場合の、日本民謡で2番目に多用される音階の呼称。

この音階では、下降終止が重視され、「サラマポニ」の旋法が最も多く用いられ、2番目は「サラマパダ」の旋法である。主音の上の音程が次に広い、「サリギパダ」がそれに次ぐ。主音の上が重増二度で、下に導音を持つ残りの旋法、即ち上昇型である「サグマディヌ」と「サグミパヌ」(これがこの類の代表旋法である)の2つは殆ど用いられない。

ヴァーディヤ(ゔぁーでぃや:vādya)

サンスクリットで「楽器」の意味。語構成的には「話させられるべきもの」。

インド音楽には500を超える伝統楽器があるが、それらは、ターラ=ヴァーディヤ〔弦鳴楽器(弦楽器)(tāra:弦=tantu)〕、スシラ=ヴァーディヤ〔気鳴楽器(管楽器)(suṣira:穴・空洞)〕、アヴァナッダ=ヴァーディヤ〔膜鳴楽器(太鼓類)(avanaddha:覆われた)〕、ガナ=ヴァーディヤ〔体鳴楽器(壺・鐘・鈴など)(ghana:硬い)〕の4種類に大きく分類されるのが通常である。

ヴァザン(ゔぁざん:vazan (vajan) )

インド音楽の用語で、音高のこと。元義は「重さ」や「韻律」の意味。

インド音楽には、歴史的に音名の概念がないため、これを振動数(周波数)値で呼ぶ。

ヴァジュリカー(ゔぁじゅりかー:vajrikā)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に10番目の音程。原義は「金剛石(=ダイヤモンド)」の女性形。

音程幅は学説により、約21.5¢または約55.0¢。ジャーティは、ディープター。

ヴァラヤ(ゔぁらや:valaya)

1オクターヴ周期性の音階の総称。周期性音階。語義としては造語であるが、本来、サンスクリットで「環」、特に腕環を意味し、訳して「音環(おんかん)」とする。西洋音楽のディアトニック音階(全音階)も、ヴァラヤの1種である。

音階や旋法と同様、全体の高さを移しても、同じヴァラヤである。12半音単位で7音構成のヴァラヤは、66通りが存在する。また、24四分音単位で7音構成では、実に57,686通りとなる。因みに、12半音単位で5音構成のヴァラヤ(二度は累畳重増二度まで)は61通りが存在する。

なお、7音構成のヴァラヤを、サンプールナ=ヴァラヤ、5音構成のヴァラヤを、アウダヴァ=ヴァラヤと呼ぶ。

ヴァルナ(ゔぁるな:varṇa)

音度名音度記号・または音符のこと。インド音楽の用語。

「覆っているもの」「外面・外貌」の意味から転じ、「顔色」を経て、サンスクリットで主に「色」を意味する単語だが、そこから、言語における「音素」「音節」「文字」や、音楽における「音度名」「音度記号」「音符」にも、類比的に用いられるようになった。調性音楽では、主音からの音程によって、音の色合いや性格が変わって感じられるが、そのことの譬喩である。オクターヴ12半音単位では音の絵具は12色であるが、それを24四分音単位にすれば24色の繊細さとなる。

更に、「音度名」「音度記号」「音符」によって表される各楽音のことも指す。「シャブダ」と対になる概念。

ヴィクリタ(ゔぃくりた:vikṛta)

インド古典音楽において、基本音階の幹音に対して、変化した音(変化音・派生音)を形容する言葉。原義は「変化した・不正な」。反対に、変化していない音は「シュッダ」と形容し、西洋音楽の「ナチュラル」に相当する。

なお、半音上げるのは「ティーヴラ」、半音下げるのは「コーマル」と表現し、それぞれ、西洋音楽の「シャープ」と「フラット」に相当するが、いずれも「ヴィクリタ」とも表現できる。

ヴィヤーヴァハーリカ(ゔぃやーゔぁはーりか:vyāvahārika)

「日常的・世俗的な」の意味で、インド古典音楽においては「形而下の事柄」即ちラーガターラを意味する。また、音律を構成するシュルティ(微分音)や、ラヤ(laya:テンポ・速度)もこちらに含まれる。

バーヴァ(情緒・情趣)や宗教的意義に対比され、ヴィヤーヴァハーリカに注意を奪われ過ぎないように、といった文脈で用いられる。

ウグラー(うぐらー:ugrā)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に21番目の音程。原義は「威力ある・恐るべき」の女性形。

音程幅は学説により、約21.5¢または約27.7¢。ジャーティは、ディープター。

ウッタラ=アンガ(うったら=あんが:uttara^aṅga)

主音から上方へ旋法を見たときに、遠い側・高い方にあるアンガのこと。

移動サで言えば、概ね「パ~サ」「マ~サ」または「マ~二」に位置するアンガをいう。

プールヴァ=アンガと対になる概念。

ウッタラ=ラーガ(うったら=らーが:uttara-rāga)

演音軸音)がウッタラ=アンガに含まれるラーガのこと。移動サで言えば、概ね、パ~二に演音が位置するラーガ。

プールヴァ=ラーガと対になる概念。

運指ド(うんしど)

ドレミ擬楽唱的用法。楽器の特定の指遣いやポジションに対してドレミを振り当て、奏法や指遣いが似た音域の違う楽器でも、同じ指遣いの音は同じドレミで呼ぶ。

エオリア旋法(えおりあ・せんぽう:Aeolian mode)

ヨーロッパ音楽の旋法名。アイオリア旋法。エオリアン。イーオリアン。

教会旋法名としては、「第Ⅸ旋法」と呼ぶ方がより正式で、ドレミでは「ラシドレミファソラ」でラが主音・ミが軸音、拡張移動サでは「サリギマパダニ」と表記できる。ルネサンス期に正式に追加された旋法の一つ。

なお、古典ギリシア語及び古典ラテン語では、'ai'/'ae'の母音は二重母音であったが、教会旋法命名当時の中世ラテン語では単純な'e'となっており、後の言語では'i'に変わっている場合もある。

演音(えんおん:vādī)

旋法の音の動きの中で最も長くまたは頻繁に滞在する音。主音と同一の場合もあるし、異なる場合もある。軸音。ヴァ―ディー。旋法の構成音の役割の一つ。

副演音補軸音)・順旋音違旋音と組になった概念。

エンハーモニック(えんはーもにっく:enharmonic)

「四分音的な・微分音的な・異名同音的な」。

もと、ギリシア音楽のテトラコード(ゲノス)の種類の名称で、<四分音(縮二度)+四分音(縮二度)+2全音(重増二度)>で完全四度を成す。

拡張移動サでは、これを重ねた旋法を「サボギュマパゾニュサ」などと読む。

ディアトニッククロマティックと組になる概念。

オクターヴ(おくたーゔ:octave)

完全八度。人間の聴覚において、何らかの音高から始めて、音高の性質が一周して元に戻ったと感じられる音程。基本周波数[Hz]で言えば、ちょうど2倍か2分の1になる関係に当たる。セント値で言えば、1,200¢。

本来はこのように音程のことを言うが、文脈によって、オクターヴの音程の幅の、音域や、音階の各構成音のことを意味する場合がある。

また「オクターヴ関係」と言う場合には、1オクターヴ差の関係だけでなく、それより広い関係を含むことがあり、言い換えると、同じピッチクラスに属する音を象徴的に総称することがある。

オクターヴ種(おくたーゔしゅ:octave species)

オクターヴ音域を取り出した音階について、その音域での、音程の並び方の種類のこと。

主な文脈としては、その中で、主音演音軸音)・副演音補軸音)などの音の役割を定めて、旋法を構成するという流れの中で用いられる。ディアトニック音階を初めとする12半音単位1オクターヴ周期の7音音階では、どこの階名の音をオクターヴの区切りとするかによって、全て違ったオクターヴ種が生じる。

任意のオクターヴ種の最低音が主音であるとしたとき、それはメーラである。なお、広義のメーラの周期は、1オクターヴとは限らない。

音位(おんい)

音階旋法和音等における、構成音の位置関係・音程関係のこと。これに関連して、「定位」「転位」「原位」などの用語がある。また「本位記号」といえば、ナチュラル(♮)のこと。

音位名(おんいめい)

音位に付けられた名前。

中でも、音階を構成する楽音の名前セットでありながら、基準音高が明示されていなかったり、一つの名前で複数の音高/ピッチクラスを指すものがあるために音名と言い切れず、かといって、実践上四度程度以内の誤差幅に固定されており、また楽曲全体の高低を動かす移調などの概念もないために階名でもない、階名と未分化の状態の音名を、特に指してそう呼ぶ。

例えば、階名としてのドレミの原型が提唱される前の、ABCを使った音の名前は、音位名であったと考える。同様に、南アジア文化圏でサルガムが登場する前の、サーマンにおける音の名前も、音位名であったと推定する。

音域(おんいき:range)

音高の包括的な範囲。音程が点としての音高同士の距離を言うのに対し、音域は、中身の詰まった棒の長さようにその途中の音を含む。

但し、その途中の音全てを意味しなくてもよい。例えばピアノの音は実際には飛び飛びであり、隣り合う半音同士の鍵盤の中間の音を出すことは(調律し替えない限り)出せないが、音域については、人の声やバイオリンと同じように言う。

音階(おんかい:scale / gamut)

楽音を高低順に並べたもの。特に何らかの楽曲やジャンルに使われる楽音全てを抽象化したセットで、それに則って新しく楽曲や旋法を創り出すことも可能と考えられるもの。

旋法と違って、主音・属音をはじめとする、音の役割や音度の概念を含まない。構成楽音間の、音程関係のセットということと、高低順に整理されていることが重要である。また、音程関係を保って全体を高低に移すこと(=移均)ができ、移均しても同種の音階である。

通常、1オクターヴで周期を成す周期性の音階が使われるが、2オクターヴで周期を成すものや、周期を成さない音階もある。周期性の音階に関しては、その1周期を示すことで音階の種類を表現するのが普通である。また、1周期に含む楽音の数により、5音音階・7音音階などと称される。

音高(おんこう:pitch)

楽音の高さのこと。知覚される音の高さ、もしくは音の物理的な高さ(基本周波数[Hz])を指す。

意味する高さの厳密さは、文脈によって異なる。音律について語るときは細かいが、楽曲の理論を語るときは概して粗い。しかし、0.01¢より細かいことや、100¢(≒半音)より粗いことはまず考えられない。

なお、音のこの性質を、空間的位置関係として高低で言い表すことは、本質的ではない。高低が今と逆の表現を持つ文化も歴史上存在した。配列を水平にして、左右で表しても構わないし、非空間的に例えば、色彩に比して「濃淡」で言い表しても構わないところのものである。空間的高低の配列イメージを持つことが、演奏技術習得の上で誤解の元になる可能性もある。

音称(おんしょう)

音を呼ぶ名称。非常に広範な概念であり、以下を含む。

音名(=音高名)、階名、音位名、音度名、音相名、音格名、奏位名、音程名、音段名、音配名、音長名、音量名、擬拍名、和音名(=コードネーム)、随旋和音名、音色名、装趣名、擬楽名。

音段(おんだん)

ピッチクラスの概念を、移動サに応用した音程の呼び方。

周期性の旋法主音、または周期性の音階基準音を「0段」とし、そこから高い方へと順に、音程半音幅ごとに番号を割り当てる。ちょうど1オクターヴ上は「12段」となるが、ピッチクラスの観点からそれは「0段」と等価である。

音度と違って、旋法や音階が幾つの幹音から成り立っているかや、その音が旋法や音階の何番目の音かを判別しなくても、主音あるいは均基準音からの音程を呼ぶことができる。

音楽の中で、明らかに幹音派生音・変化音との対応がある場合には、それぞれに段数を呼ぶのではなく、幹音の方に「正」を冠し、派生音・変化音の方には、変化の仕方に応じて「増」「減」「重増」「重減」などを冠して呼ぶ。例えば、「正5段」が半音上がれば「増5段」、半音下がれば「減5段」である。

音度表記にローマ数字を使うのに対し、音段には専ら算用数字を用いることとする。0から始まることと、二桁になるため、ローマ数字では具合が悪い。そして、すぐに音度と区別がつく方がよいからである。主音または均基準音を基準にせずに、音程関係一般を指す場合には、漢数字を用いることで書き分ける。

音程(おんてい:interval)

複数の楽音間における音高の隔たりまたは関係。

楽音同士は、同時に鳴らされるものであっても、旋律の前後関係にあるものであっても、または理論上の比較でも構わない。基本周波数[Hz]の比が同じであれば、人の耳には同じ音程と感じられる。音程の大きさを定量的に比べるには、周波数比を対数化したセント値(※1オクターヴ=1,200¢(セント))などを用いる。

最も一般には、ディアトニック音階(全音階)を基準とした度数で呼ぶ。即ち、その音程を構成するのに使われる幹音の数(途中も両端も数える)を「○度」とし、その前に、音程変化のバリエーションを示す「完全」「長」「短」「増」「減」などの接頭辞を付して、「完全四度」「長三度」「短六度」といった言い方をする。

「全音」「半音」なども、音程の呼び名である。

音度(おんど:scale degree)

周期性の旋法の各構成音に対して、主音から高い方へと順に、番号・記号または名称を割り当てたもの。中でも特に、番号を割り当てたものを指す。最も一般的にはローマ数字で表記し、7音旋法の場合、ⅰ度音(=主音)からⅶ度音までが周期を成す。

音の高低順に加えて、音程関係のバリエーションを表現したものも、音度と呼び、「拡張移動サ」の音度名唱は、この広義の音度を表現している。

なお、拡張移動サの理論では、7音旋法の時は完全ⅷ度=オクターヴになるが、5音旋法ならばオクターブは完全ⅵ度になり、12音旋法ならば完全ⅹⅲ度になる。オクターヴを表す音度の数字は変わるが、音度名は主音と同じ「サ」で変わらない。また音程は、7音旋法基準の表現で呼び続ける。

音度記号(おんどきごう)

音度を表す記号。音階を表すためには、通常はローマ数字のⅰ~ⅶを用いるが、ポピュラー音楽では算用数字を用いることも多い。また、ローマ数字大文字のⅠ~Ⅶは、それぞれの度数の音を根音とする和音を意味する和音記号として用いられることが多い。

音度名(おんどめい:scale degree name)

音度に付けられた、(番号や記号ではなく)言葉・音声としての名称。

西洋音楽においては順に、主音(tonic)・上主音(supertonic)・上中音(mediant)・下属音(subdominant)・属音(dominant)・下中音(submediant)・下主音(subtonic)及び導音(leading tone)が音度名である。(※終わりの二つがⅶ度音の音程バリエーションである。)

拡張移動サの音度名は、インド音楽の歌唱用の音度名をもとにしており、階名と同じく、それぞれが短い1音節から成っている。

音度名唱(おんどめいしょう)

歌唱用の音度名を用いた代音唱法

音部記号(おんぶきごう:clef)

五線譜で、それがどの音域を示す五線かを示すために、主に各段の冒頭に置かれる記号。これがなければ、音符の音位音名音高は決定できない。

記号それ自体としては、音名記号とも呼ばれ、「ト音記号(高音部記号)」「ヘ音記号(低音部記号)」「ハ音記号(中音部記号)」の3種類が用いられる。この「ト」「へ」「ハ」というのは、それぞれイロハ式音名であり、元来それぞれの音名が相当する五線譜上の位置を示す記号である。

また、それらの記号と五線との高低位置関係によって、3度ずつ音域の異なる各種の表現ができ、それぞれ「ヴァイオリン(トレブル)記号」「ソプラノ記号」「メゾソプラノ記号」「アルト記号」「テノール記号」「バリトン記号」「バス記号」などと、主に合唱のパート名(音部名)にちなんだ名称を持っている。

音名(おんめい:pitch name)

音高(=楽音の高さ)に付けられた名前。

現代日本では、日本語の「イロハ」式のほか、ドイツ語式や英語式(ABC)が、少しずつ異なる用法で平行して用いられている。即ち、起こりとしては、辞書順に文字を当てはめたものである。「ドレミ」は、日本では本来、階名であるとされているが、「ハ=ド」とした音名として使われる場合も多い(固定ド)。

なお、古代ギリシアの音組織に対しては、弦楽器キタラの弦の配列を起源とする、全く別の音名があった。日本や中国の古典音楽にも、独自の音名があり、「十二律」として知られている。

事実上ピッチクラス(音級)名である場合も、区別せずに音名と呼ぶことが多い。

音名唱(おんめいしょう)

歌唱用の音名を用いた代音唱法

音律(おんりつ:tuning system / temperament〔調整・整律〕)

音階旋法のための、音高音程の定め方。各音の周波数の関係についての規定・規範。

例えば、12平均律はオクターブを12に均等分割したものであり、ピタゴラス音律は完全五度を積み重ねたものであるというように、様々な基準による多様な音律が知られている。

互いに少しずつ音程が異なることにより、各音程の協和の度合いや旋律の明晰度が変わり、耳で受ける印象が違ってくる。

音列(おんれつ:tone-row / série)

音を並べたもので、その音程関係だけが意味を持つ場合と、音高も意味を持つ場合がある。

特に、音階旋法と呼ぶに相応しい性質がなく、かつ楽曲の中のフレーズ(楽句)でもない音の配列・系列を含み、必然的に、そのような配列・系列を指して使われることが多い。

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(最終更新2012.11.23)

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