声楽と音度名唱

 ※音度名唱「拡張移動サ」の全体を概観するには、拡張移動サ音度名表をご覧ください。

大歓喜トップ >> 声楽と音度名唱 >> 移動サの用語集

移動サの用語集:マ行

ア行 | カ行 | サ行 | タ行 | ナ行 | ハ行 | マ行 | ヤ行 | ラ行 | ワ行 | 数字・記号

マートラー(まーとらー:mātrā)(1)

音律の基準となる音程。ここでは「拡張移動サ」独自の定義。スヴァラ=マートラー。

種類は以下の通り。上の4種が特に重要である。

ドヴァイティーヤー <記号 [D] /振動数比1:2/模式的セント値1200¢/カラー値106к>

チャートゥルティー <記号 [Q] /振動数比3:4/模式的セント値498¢/カラー値44к>

アーシュタミー <記号 [O] /振動数比7:8/模式的セント値231.5¢/カラー値20.5к>

シャウダシー <記号 [S] /振動数比15:16/模式的セント値112¢/カラー値10к>

ドヴァートリンシャー <記号 [W] /振動数比31:32/セント値約55¢/カラー値約5к>

ドヴァーダシー <記号 [U] /振動数比11:12/模式的セント値151.5¢/カラー値13.5к>

同じ長さの弦を同じ音高になるように複数張っておき、分割しない弦の音高を基準に、他の弦を駒で分割して音程を導き出す。[D]は、弦を左右同音となるよう2等分し、開放弦と1オクターヴの音程である。[Q](完全四度)は、開放弦と2オクターヴ差を作った残りの方の弦と、開放弦の間の音程。同様に[O](7の減三度)は、3オクターヴ差を作った残りの弦、[S](短二度)は、4オクターヴ差を作った残りの弦と、それぞれ元の開放弦との音程である。それぞれが比率の上で素数2・3・7・5の源となっており、7リミット純正律の音程の全てが、この4種類の組合せから導き出せ、それも整数倍の和と差による簡単な式で表わされる。例えば7リミット中三度は「2O-S」又は「D-Q-2O+S」で、351¢/31кとなる。

スヴァラマートラー概念図

音度名としては、完全音程となる「サ・パ・マ」が[D]と[Q]のみから生み出され、長・短音程となる「ラ・リ・ギ・グ・ダ・ディ・ニ・ヌ」には[S]が加わり、増・減音程である「シ・ソ・ロ・ル・ガ・ゲ・モ・ミ・ポ・ピ・ド・ドゥ・ナ・ネ」には更に[O]が加わる。

各マートラーは、それぞれ「サ―」間([D])、「サ―マ」間([Q])、「サ―ガ」間([O])、「サ―ラ」間([S])の音程に相当する。これによって、南インドの音楽理論で72種の最初に挙げられる標準メーラである、メーラ=カナカーンギー(拡張移動サ表記で「サラガマパダナ」)の両アンガ(即ち「サラガマ」と「パダナ」)を構成する音列が生まれる。この音列はクロマティック類である。

残るマートラーのうち、[W]は上と同様の手法で導出できるが、5オクターヴを出すには長大な弦が必要な上、実用性に乏しく、均等分割した1シュルティの音程を近似することに主な意味がある(オクターヴを平均で22分割した音程に近い)。「サ―ボ」間の音程(縮二度)に相当する。これを使って音列「サボギュマ」や「パゾニュ」を生じるが、これらはエンハーモニック類に属する。

[U]は、素数11を導入し11リミットとするものである。先に一本の弦を、元の開放弦の完全五度上と完全十二度上(互いにオクターヴ差)に分割してから、もう一本の弦でその完全十二度の方の音の2オクターヴ上を割り出し、その残りの弦と、最初の開放弦との間の音程である。導出はやや厄介であるが、11リミットにした場合の重増・重減音程の音度名、それらと異名同音になるものが多い四分音音度名、そして多音度音階用拡張音度名の音程の設定に活躍する。[U]自体は、中二度音程として音度名「サ―バ」間、または重減三度音程として「サ―ギュ」間の音程。幾つかの中立音程では、7リミットより中心から離れるが、より単純な振動数比を提供する(中二度=11:12、中三度=9:11、中六度=11:18、中七度=6:11)。また例えば11リミット正6段は「2D-4Q+O+S-U」または「4Q-D-O-S+U」で、600¢/53кとなる。

なお、管楽器を吹く場合、何らかの基音から、同じ指使いを保ったままで、息の速さや角度を調節することにより、その倍音(部分音)を基音にした音を吹き上げることができる(=管楽器における「ハーモ二クス」)。特定の指遣いでの最低音を仮に「サ」としたとき、管の内径がほぼ一定の開管の管楽器を仮定すると、その指遣いで出る音列は、低い方から順に「 ― サ ― パ ― ドゥサ'リ'グ'フォ' ……」のようになる。

この音列の中にも、「―サ」間の[D]、「パ―」間の[Q]、「ドゥサ'」間の[O]が含まれる。この方法で[S]を得ることは人間には無理であるが、実質的に[S]を含んだ音程は「」間に現れている。

マートラー(まーとらー:mātrā)(2)

「ターラ(拍節法)」に基づくリズム周期を構成する、拍の長さの基本単位。特に北インド古典音楽での呼び方。ラヤ=マートラー。

ラグ(laghu・軽い)、グル(guru・重い)、プルタ(pluta・延ばされた)の3種が挙げられるが、この呼称は、韻文(詩)の韻律におけるものと同じである。

マールジャニー(まーるじゃにー:mārjanī)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に13番目の音程。原義は「浄化」または「刷毛・箒(<拭うもの)」で、女性名詞。

音程幅は学説により、約21.5¢または約27.3¢。ジャーティは、マディヤー。

マダンティー(まだんてぃー:madantī)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に18番目の音程。原義は「喜んでいる・夢中になっている」の女性形。

音程幅は学説により、約70.7¢または約56.8¢。ジャーティは、カルナー。

マディヤマ(までぃやま:madhyama)

インドの伝統によるⅳ度音の音度名。「マ(M)=スヴァラ」。スヴァラの一つ。

「中央の」の意味で、7つのスヴァラを順次数えるに当たり、中央の4番目に位置する。漢訳で「中令」「中婦」とも。

マンダー(まんだー:mandā)

インド音楽におけるシュルティ名で、音階基準音から上方に3番目の音程。原義は「緩慢な・微弱な・穏やかな」の女性形。

音程幅は学説により、約90.2¢または約37.2¢。ジャーティは、ムリドゥ。

ミーンド(みーんど:mīṃḍ / bending)

フレット付きの弦楽器で、演奏する弦を、押さえる指で引っ張り曲げて、音高を上げること。

インド音楽での用語。カナ表記は「ミード」とも。英語由来の用語ではベンディング、または日本の用語でチョーキングのこと。筝における押手とも同じ原理。

インド音楽では音程のポルタメント(スライド効果)のために多用され、楽器や音域によっても異なるが、三度から五度、大型の楽器ではオクターヴ近くも音を上げることがある。従って、押さえているフレットがどれであるかを見るだけでは、出している音高の推測が難しい。

ミクソリディア旋法(みくそりでぃあ・せんぽう:Mixolydian mode)

ヨーロッパ音楽の旋法名。ミクソリューディア旋法。ミクソリディアン。

教会旋法名としては、「第Ⅶ旋法」または「正格テトラルドゥス(tetrardus authentus)」と呼ぶ方がより正式で、ドレミでは「ソラシドレミファソ」でソが主音・レが軸音、拡張移動サでは「サリグマパディニ」と表記できる。

古代ギリシアで用いられた名称としては、ドレミでは「シドレミファソラシ」、拡張移動サでは「サラギマポダニ」、教会旋法でロクリア旋法と呼ばれるものに相当する。

なお、古典ギリシア語及び古典ラテン語では、'y'の母音は円唇前舌母音であったが、教会旋法命名当時の中世ラテン語では'i'と混同されていた。また、古典ギリシア語及び古典ラテン語では、三番目の音節'ly-'の母音'y'は長母音であったが、中世ラテン語では、母音の長短による語の区別は失われていた。

ムタツィオ(むたつぃお:mutation)

階名の読み替え。

イタリアでヨーロッパ式の階名が発明されたとき(11世紀)、今の「シ(Si)」(または「ティ(Ti)」)に相当する階名がまだなかったため、「ド(Do)」(当初は「ウト(Ut)」)から上方へオクターヴを歌うためには「ソ=ド」と読み替えて「ドレミファソ(=ド)レミファ」のようにしていた(その後、ルネサンス、バロック期にも行われた)。このように、6つの階名から成るヘクサコルドを用い、オクターヴに達する前にほぼ五度ごとに読み替えを行うことを、ムタツィオという。

基準となるヘクサコルドを「自然ヘクサコルド」、そこから四度上に移したものを「柔かいヘクサコルド」、逆に四度下に移したものを「硬いヘクサコルド」と呼んでいた。

因みに、西ヨーロッパでムタツィオの試みを始めるより千年以上も前から、インドでは7つの音度名が揃っていた上、曲の途中で主音の音高が変わることがなかったので、インド音楽史には該当する概念が存在しない。「ドレミ」は、現代でこそ全世界に通用するが、歴史上はもっと古い起源を持つ階名セットが複数存在していた。

メーラ(めーら:mela)

旋法のうち、周期性の音階音度のみを定めた最も単純な形式のもの。本来、サンスクリットで「集合・集会」を意味し、訳して「音聚(おんじゅ)」とする。

形式的には、1オクターヴ周期で半音単位の7音ヴァラヤ66種は全て、転回に対して非対称であるため、12半音単位で7音のメーラは、462種類存在し、それぞれに記号・番号及び表記がある(※1オクターヴ周期24四分音単位では403,788種類。そのうち標準的なアンガ構造に分析できるものは43,506種類。)。しかし音楽的な発展性はまちまちであり、その中の数種類だけで現代の楽曲の大半を占めているようである。

南インド音楽の体系では、基本のメーラ(ジャナカ=メーラ(親旋法))は72種類数え挙げられており、それぞれに名前がある。その名前は、それぞれサンスクリットで意味を持ち、語頭から2つの音節に含まれる子音が表象する数字によって、名前を覚えていればその順序も思い出せるようになっている。

ア行 | カ行 | サ行 | タ行 | ナ行 | ハ行 | マ行 | ヤ行 | ラ行 | ワ行 | 数字・記号


(最終更新2013.10.12)

大歓喜トップ >> 声楽と音度名唱 >> 移動サの用語集