代音唱法の考察

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類・均・種・調・格(2)

いわゆる転調について、私の用いる定義に基づく表現では転旋となる。その内容について述べておく。ここで述べている類・均などの用語は、転旋において最も大きな意味を持つ。

転旋(転調)について

旋法が連続した一つの演奏の中で変わるとき、その変化を転旋と呼ぶ。

普通はこれを転調と言うが、私の用語では、転調とは、あくまで主音(旋法のキー)が変わることを意味し、キーの変わらない同主調(例えば、ハ長調に対するハ短調)への移行は転調とは呼ばない。その理由は、前ページの定義にある通り、調は主音の音高(音名)を意味するのだからである。同主調というのは、その定義通り、調が同じということである。だから、同主調などへの移行は「転調」に含まれず、普通に言う転調のためには「転旋」という用語を使うのである。

類・均・種・調・格のうち、どれか一つでも変わるなら、それは転旋である。転旋は、調号(均号)が変わることと同義ではない。平行調への移行時はもちろんのこと、類や均が変わっても、七音音階でない場合は、見掛け上は調号(均号)が書き変わらないことがある。調号(均号)にあまり頼らない記譜の流儀もあるし、同じ構成音で主音も同じでありながら旋律や和声の色合いががらっと変わるだけの「転格」も転旋のうちである。

それでは、私の用いる定義に基づくと、転旋の分類はどのようになるであろうか。それを以下に述べる。

オクターヴ周期性の七音音階または五音音階については、類がそのままであるとすると、均・種・調の3項目のうち2つが決まると、残りの1つが決まってしまう。言いかえると、類がそのままの場合、均・種・調のうちで、1つだけが変わるということはない。全部がそのままか、1つだけがそのままで残り2つが変わるか、そうでなければ全てが変わるかである。

1.留類均・更種調(留階更旋:~平行調への転旋~)

音階の類と均がそのままで、旋法の種と類が変わる転旋。類と均がそのままということは、旋法の構成音は音高として全て同じで、同じ音階の上にあるということである。音階がそのままで旋法が変わるのであるから、留階更旋とも表現できる。このタイプでは、調号(均号)は変わらない。

平行調への転旋で、長調/短調というシステムの場合は転旋先は一種類しかない(例えば、ハ長調に対するイ短調)のであるが、私の定義では、この「留類均・更種調」に相当する転旋先は、少なくとも、各音階構成音から1引いた個数以上はある。即ち、ハ長調に対しては、ニ音を主音としたドーリア旋法、ホ音を主音にしたフリギア旋法、へ音を主音にしたリディア旋法、ト音を主音にしたミクソリディア旋法、ロ音を主音にしたロクリア旋法も、このタイプの転旋先に含まれるのである。それだけでなく、それぞれのいわゆる変格旋法や、それ以外の格の旋法も、同等の転旋先であるから、実際にはずっと多いことになる。

2.留類種・更均調(留相更調:~属調・下属調などへの転旋~)

音階の類と旋法の種がそのままで、音階の均と旋法の調が変わる転旋。類と種がそのままということは、主音から見た構成音の音程関係が全て同じで、同じ相の旋法・相似の旋法への転旋ということになる。旋法の相が同じで、別の調(キー)に全体が移動するのであるから、留相更調とも表現できる。

この関係の転旋は、例えば、いわゆるハ長調に対する他の長調全部(ト長調・ヘ長調・ニ長調・変ロ長調・イ長調・変ホ長調……)である。

その中で、属調・下属調と呼ばれるのは、それぞれ、前の調の属音・下属音を、新しい調の主音とする関係の旋法である。ディアトニック類の音階の場合は、それらが強力な近親調なのであるが、その理由は、新しい調の主音が前の調でも重要な役割を担っていたということだけではない。七音音階のうち六音までが音高の変わらない、容易に移行できる関係にあるためでもある。

ここで、任意の類につき、最も少ない音位変化で移行できる均を隣接均と名づけるとすると、ディアトニック類における属調・下属調への転旋は、隣接均への転旋と言い換えることができる。しかし、他の類の音階では、隣接均が属調・下属調と一致するとは限らない。このタイプの転旋のしやすさは、各類の音程構造によって影響されることになる。

このタイプの転旋先には、半音単位であれば11種類があることになるが、それぞれにさらに格の違いがある上に、音律組織が半音単位でなければ、それによって数が増減する。原理的には、耳で聴き分けられる限りの数、少なくとも100以上の転旋先があるといえる。

3.留類調・更均種(留調更種:~同主調への転旋~)

音階の類と旋法の調がそのままで、音階の均と旋法の種が変わる転旋。類と調がそのままということは、前の旋法の主音の高さまで、音階の別の構成音が来るように、音階の均を上げ下げした関係の旋法への転旋ということになる。それによって、主音と他の音との音程関係が変わる。意味合いの重要な項を残して略せば、留調更種ということができる。

同主調への転旋で、長調/短調というシステムの場合は転旋先は一種類しかない(例えば、ハ長調に対するハ短調)のであるが、私の定義では、この「留類調・更均種」に相当する転旋先は、上述の「留類均・更種調」と同様、少なくとも、各音階構成音から1引いた個数以上はある。即ち、ハ長調に対しては、同じハ音を主音にしたままの、ドーリア旋法、フリギア旋法、リディア旋法、ミクソリディア旋法、ロクリア旋法がこのタイプの転旋先に含まれる。さらに、格のバリエーションも考慮に入れなくてはならない。

4.留類・更均種調(~属調平行調・下属調平行調などへの転旋~)

音階の類だけがそのままで、音階の均と旋法の種・調がいずれも変わる転旋。上記1.~3.のうち、いずれか2つの要素を組み合わせて同時に行うだけで、多くの場合はこのタイプとなる。

例えば、いわゆるハ長調を基準とすれば、属調平行調はホ短調、下属調平行調はニ短調、属調同主調はト短調、下属調同主調はへ短調となるが、それらの関係は比較的近い関係であるとされる。

5.留類均種調・転格(留相転格)

音階の類と均、旋法の種と調が全てそのままで、格のみが変わる転格。使用音も主音も全く変わらないのに、その他の音の役割関係だけが変わる。

例えば、ハ長調で、ハ音とト音が核音になるのは最も普通であるが、これを途中から、ホ音とイ音が核音になるように(和声が付くならⅥmやⅢmなどの和音が優勢)格を変えて旋律を作れば、イ短調に近い雰囲気を持つようになる。しかし、ハ音が主音であり続ける限り、平行調への転旋ではなく、転格である。

6.留調・転類

ヨーロッパ音楽の基本的な楽典では、類が変わることに関してあまり注目していない。しかし、インド古典音などでは、ドローン(持続音群)の関係上、主音の途中変更は原則として無いのに対し、類が変わることはありうるのである。

転旋に際して類が変わることを前提としてしまうと、その他の、均や種の概念は、殆ど意味を持たない。類をまたがって、同じ均や種に共通する雰囲気などというものは考えにくいからである。しかし、主音の音高(音名)である調を保つことだけは、音楽構造上の意味がある。従って、この項目の標題のように、「留調・転類」と記すことにする。

(つづく)


(最終更新2012.11.23)

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