代音唱法の考察

大歓喜トップ >> 代音唱法の考察 >> 音程・音階・階名(1),(2),(3),(4),(5)

音程・音階・階名(3)

階名の機能で、最も肝要なことは、音程を数えることである。

音程を数える

音程の表現、「長三度」とか「完全五度」といった言い表し方は、音階を前提としている。

もし音高同士の物理的な関係を言い表すだけであれば、振動数(周波数)の比をそのまま使って「4:5」とか「2:3」と表現してもいいはずだし、それでは感覚的に幅の広狭が分かりにくいというのであれば、オクターヴを1200等分するように対数化したセント値を使って、「386セント」とか「702セント」などと表現してもいいのである。実際、文脈によってはそれらの方がよく用を足す。

しかし、最も普通には、音程を表すのに「度」の表現を使う。これは、二つの音を、片方から音階に沿って階名で辿ったときに、幾つ目の階名で他方に辿りつくかを意味しているのだ。二つの音が同じ音高で同じ階名であったときには、それは階名1つ目であるから「一度」である。二つの音が同じ階名で、音高が異なり、一方が他方の派生音と考えられる場合があるが、それも同様に「一度」である。それらを区別するために、全く同じ音高の場合は「完全一度」と呼び、およそ半音の差が付いている場合は「増一度」と呼ぶ。しかし、およそ半音の差であっても、それぞれが音階の独立した構成音であると認められる場合には、それは「短二度」と呼ばれるだろう。けれどもさらに例えば、半音の半分、つまり四分音が音階に使われていて、およそ半音離れた二つの構成音の間にもう一つ独立した構成音が挟まっていることもありうるが、その場合には、同じ約半音幅でも「減三度」と呼ばれるかもしれない。

このように、音程の数えられ方は、音階や階名に依存するのである。それはつまり、音程は物理学のではなく、音楽の要素だということでもある。

オクターヴが「完全八度」とされるのには、幾つか前提がある。七音音階を標準とする代わりに、五音音階を標準とする理論が採用されていた場合には、それは「完全六度」と呼ばれていたかもしれない。また、七音音階が標準であっても、同じ音高・同じ階名の音を「零度」とする数え方が採用されていれば、それは「完全七度」だったかもしれない。習慣に沿って、正規とされている表現を私も用いるが、正規の「完全一度」の代わりに「完全零度」を使ったほうが、音程を計算するのにはより簡単で便利だったはずである。

階名の役割

階名は、らせん状を成す音階にあてがわれる分度器のようなものである。

音階の上から下まで別々の階名があって、階名自体もらせん形をしている場合もあれば、オクターヴ周期を成して円盤状をしている階名もあり、オクターヴに足りない例えば半円形の階名もある。ヨーロッパ系音楽の現在の階名は、円盤状をしているが、それ以前、階名が発明されてから500年余りは、円になるには少し欠けた扇形をしていた。

それらの階名は、音階における構成音の順序と、お互いの距離(音程)を意味している。従って、ドレミの場合、レの一音上はミでなくてはならないし、それらの距離は全音でなくてはならない。同様に原則として、ミとファの間は、半音でなくてはならない。ミがそのままでファが半音上がったならば、その前後の音階の変化を読みとった上で、分度器のあてがい方を変え、つまり階名の読み替えをして、そこに別の階名が来るようにするのである。

従って、同じ音高でも複数の階名で読まれ、同じ階名が複数の音高に対応することになるが、これは階名の重要な性質である。ドレミ式階名唱が「移動ド」と呼ばれる所以である。

それと同様に注意したいのが、後述する旋法との関係である。ヨーロッパ系音楽では長音階(ド旋法)が標準として圧倒的に力を持っているので、誤解されがちであるが、音階という考え方の中では、同じ主音という機能が旋法によって複数の階名に対応し、同じ階名に主音・属音など複数の機能が対応する。短音階(ラ旋法)ならば主音はラで属音はミであるし、教会旋法ならばレ・ミ・ファ・ソも主音となることを忘れてはならない。「階名では『ド』は主音」というのは誤りであって、そういう構造をしているのは音度名である。ヨーロッパ系音楽では、標準となる旋法が2系統しかないために、用法上、階名に音度名の機能も負わせることができているのである。

(つづく)


(最終更新2012.11.6)

大歓喜トップ >> 代音唱法の考察 >> 音程・音階・階名(1),(2),(3),(4),(5)