代音唱法の考察

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音程・音階・階名(5)

階名の特長を、他の唱法と比べる視点で見てみよう。

階名の特長と役割

階名は、音楽の音形が同じならば、それ全体の高さを変えても(つまり、移高・移均・移調しても)読み方を変える必要がない。構成音の音名でではなく、音形で音楽を覚えている人にとっては、非常に馴染みやすいことが特長の一つである。

絶対音感(音高感覚)が鈍い場合には、音楽を聞いても、その内容を音名で捉えることはできない。しかし、相対音感(音程感覚・音形感覚)が十分あれば、聞いた音楽を、音形で把握することができる。そして、その音楽が知っている階名(多くの場合ドレミ)に当てはまるならば、階名に置き換えて記憶したり書き留めたりすることができる。さらに、調はしばしば二度や三度狂うかもしれないが、その音形を五線譜に書くこともできよう。階名は、相対音感に頼る人の、音楽の聞き方に即している。

次に、階名は、五線譜から比較的機械的に導き出すことができる。音度名の場合は、楽譜をより広く読んで主音がどこかを決定しないといけないが、階名の場合は、臨時記号がなければ、音部記号(ト音記号・ヘ音記号など)と調号(均号)を元に、最後のシャープを「シ」・フラットを「ファ」とする方法で、ドレミの位置を求めることができる。五線譜から最も直接的に導き出せるのは、音名や、それを楽器でどう出すかを意味する奏位名であるが、それらに次いで機械的に、階名も読みとることができる。

絶対音感(音高感覚)が鈍い場合には、音名を知っても、正しい音高を思い浮かべたり、歌ってみることができない。適当な楽器がなかったり音が出せない場合には、どう演奏すればよいかが分かっても奏でてみることはできない。しかし、階名が分かれば、調は狂っていても、相対音感(音程感覚・音形感覚)を頼りに、その音楽の音形を再現することができる。五線譜を読む場面においても、階名は、相対音感に頼る人の必要を満たすのである。

階名の限界

しかし、階名は、特定の音階に合わせたものである。今、最も普及している普遍的な音階はディアトニック音階(全音階)であり、階名もそれ用のドレミが普及しているのであるが、そこから音楽が離れるに従って、階名は適用されにくくなる。ヨーロッパ系のクラシックに馴染んだ人が、インド古典音楽を聞くと、しばしば非常に覚えにくい演奏に出会わすと思うが、それは、音階や音律が異なるために、ドレミを適用できないことが大きな原因の1つになっている。

もし例えば、オクターヴ周期の七音音階を、12平均律で作れる可能性を全て挙げると、66通りとなる。それらはどれも、転回(主音を変えること)に対して非対称だから、そこから作られるオクターヴ種は合計で462通りとなる。それらの中には、音楽的満足を生みにくいものも含まれているが、しかし、大半がドレミには当てはまらないことは確かである。ましてや、20世紀に普及した12音技法や四分音音楽などには階名で対応するわけにいかない。

だから、そのことをもって、階名の役割を低く考える人たちがいることにも理由がある。鋭い絶対音感と音名があれば、もっと幅広いジャンルの音楽の音を取ったり演奏したりするのに困らないのに、何のために階名教育に時間をかけるのかというわけだ。

しかし、基本的な音階に基づく楽曲というのは、ヨーロッパ系の音楽でも、中世・ルネサンス・バロック・クラシックから、フォークソング・ポップスに至るまで、今もかなり幅広く存在し、決して廃れてしまったわけではない。他方で、絶対音感(音高感覚)は幼少期にしか磨けないと言われており、それが鈍い人たちにとっては、音名は殆ど意味を成さない以上、階名を主な頼り先とする人は、必ず将来とも多数いることになろう。階名を教えることは、続けられるべきだと思う。

また、現行のドレミ式階名の大きな長所は、音度名の機能を取り込んでいることである。音度名については、音度・旋法・音度名のページをご参照いただきたい。


(最終更新2012.1.4)

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