代音唱法の考察

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音程・音階・階名(4)

次に階名そのものの構造を見てみよう。現在使われている階名は、どのようになっているだろうか。

ヨーロッパ流の階名

音名と同じく、ヨーロッパ系音楽の階名にも大きく2つの系統がある。しかし残念ながら、そのうち有力な方は、音名としても用いられているものである。すなわち、「聖ヨハネの讃歌」を淵源とする「ドレミ系」と、数の順序を用いた「数詞系」とが、ヨーロッパ系音楽の2系統の階名である。

「ドレミ系」は、歴史上、重大な変化を経ている。それは、発明当初は6個しか名前がなくオクターヴに達していなかったのに、500年余り経てから、7個目を補ってオクターヴに達するようになったということである。6個時代のドレミ系は、「Ut,Re,Mi,Fa,Sol,La」の6音節であって、今の「ド」に当たる呼び名は「ウト」であり、「シ(ティ)」はまだ無かった。この時期のドレミは、6個しかないことにより音名に使うことはできず、オクターヴに達する前に読み替え(ムタツィオ)が必要なために各旋法の音の機能を安定的に示すことができなかったから、音度名にも使えなかった。つまり、ドレミはもともと純粋な階名だったのである。「『ミ―ファ』間は半音で、残りは全音」というのが、6個時代のドレミの機能の核であった。

音名のところでも記したように、この「ドレミ系」には、幾つかの方言的違いが存在する。そして各国によって、異なる用途に用いられている。

「数詞系」は、音階を「ドレミファソラシ」の代わりに「1,2,3,4,5,6,7」と数字で記し、各言語の数詞として発音する。主として「固定ド音名唱」を主体とする教授法で、補助的に使われるものである。明治期の日本では、音名を翻案して「イロハ式」を採ったのと同様に、階名も数詞系を日本語化し、数字を順番に「ヒフミヨイムナ」と読む「和語数詞式」を学校教育に用いた。

階名の「基本型」と「詳細型」

音名では「七音音階や五音音階の幹音のみしか表せない」などということは殆どあり得ないが、移動できる分度器である階名には、変化音を表す機能がなくとも十分な用途がある。階名は、音の高低順序や音程をコトバと結び付けて、反射的に思い出せるようにするものであるから、単純な方が目的に適っているとも言える。そうした例えば「ドレミファソラシ」だけのタイプを「基本型」と名づける。「基本型」では、ごく一時的な転調でも、こまめに階名の読み替えをするか、ちょっとした半音進行ならばそのまま音階基本形の階名を読むかする。

これに対し、基本音階からの変化音を、階名の変化として読み込む流儀も存在する。ヨーロッパ流の階名では「ドレミ系」に属し、幾つもの案が考案されてきた。「シ」の代わりに「ティ(ti)」を採用して子音を全部互いに異なるようにし、変化音を母音の変化で表すタイプが有力で、その中でも幾つかに分かれる。こうしたタイプを「詳細型」と呼ぶ。このタイプでは、一時的な転調では読み替えせずに変化音用の階名を用い、半音進行も楽譜から読みとれる通りに階名を変えて歌うことができる。また、コンマと呼ばれる全音の8分の1から9分の1程度の音程の違いを純正に演奏へ反映するように用いることもできる。

詳細型の階名は、いわゆる短調の主音を「ラ」と読む代わりに「ド」と読んでも、残りの構成音の音程を正確に測ることができるので、そのまま音度名を兼用させることもできるが、そのことは後で再論する。

固定ド音名唱との衝突

「数詞系」は多くの言語で、音節の構造が複雑だったり発音が紛らわしいなど、歌唱にあまり適さない。また「数詞系」から「詳細型」の階名は作られていない。従って、階名唱に使いたい階名は「ドレミ系」となるが、階名唱教育をしたい方としては、「ドレミ」の音名としての用法が普及してしまうと、代わりの階名がなくて困るのである。

(つづく)


(最終更新2012.11.6)

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