代音唱法の考察

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音高・音律・音名(4)

それでは、音名はどのようにあるのが理想なのだろうか。

音名の条件

良い音名には、様々な条件がある。

対応する音高がなるべく精確に求められるものであるということと、少ない音名でなるべく多くの音律を表現できるということ。まずこの二つは相反する要件である。

名前の構造が、特定の音階類や均・調に有利にならないようにすること。但し、特定の種類の音楽に特化した音名を択びたい場合には、その必要はない。

話したり読み書きの際に互いに紛れがない名前のセットであるということと、なるべくならそれぞれ1音節で、それを使った音名唱が可能であるということ。そして、階名唱とも紛らわしくないこと。

音名の個数

まだ階名と十分分化していなかった時代のアルファベット系音名は、1オクターヴあたり7個、或いはB音の硬軟を区別したとして8個。この辺りが、実践上可能な最低の個数であろう。しかし明らかに、それだけでは意味のある機能は持てそうにない。

音名として有意義な最低限のラインは、1オクターヴあたり12個の半音に名前をつけること。紀元前に遡る、東アジアの伝統音名がそうであった。音律の種類の区別は付けられないが、例えば12平均律を選んでそれだけを前提にするならば十分な機能を持つし、他の幾つかの音律を含むとしても、近似を与えているとみなすことができる。

音名を増やせば、それだけ多種類の音律の異同を描き分けることができる。

オクターヴあたり53のコンマにそれぞれ名前を付けたとすれば、5リミットの純正律(狭義のいわゆる純正律)の委細を表現できる。中立音程や7リミットの動きを導入しようとすれば、その倍の106のカラーに音名を付ければ一応は対応できる。カラーは全音から見ておよそ十六分音に当たるもので、普通の人間が高さの違いを聞き分ける限界に近い。1オクターヴあたり200を超える鍵盤を持つ楽器も作られているが、多めの音名を用意するとすれば、100~200個辺りが事実上の上限水準と思われる。

12平均律を標準として、その他の音律を細かく描き分けるには、オクターヴ当たり1,200のセントを用いるが、さすがに1,200個に数値以外の名前を用意するのは無意味だろう。

ヨーロッパ音楽の現行の音名は、名称としては派生音を含めて 7 × 5 = 35個。実音の個数は音律によって異なり、12平均律ならば異名同音(異なる音名でも実際の音高は等しい)が多数出て12個に減るし、純正律ならば逆に同じ音名のコンマ違いが出て増える。だから、音名の個数としては標準的なものと言える。

ただ、12平均律を最も標準的な音律とするなら、12の半音全てに均質に名前を付けて欲しかった。それは例えば、A,B,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M のようなアルファベット順でも良かったのだが。四分音音階を好む私としては、24平均律も捨てがたい。だから、そのための独自音名も用意してある。

音名の構造

ヨーロッパ音楽の音名は、音名であるにも関わらず、標準とされる音階の類(いわゆるディアトニック音階)を基準とし、さらにその標準の均(音階全体の音高)を定めて、それを「幹音」としてしまっている。その意味で、構造的に階名と近い。従って、他の類の音階を基本として教えるような音楽文化においては、最初から「派生音」を教えることになったり、または使いたい音に対応する音名が無かったりして、明らかに不便になる。

私はあらゆる面で「反ヨーロッパ中心主義」的心情を持っているので、このように文化を差別するような音名を国際標準にすることには反感を抱く。しかし、全ての音楽文化に中立かつ有効な音名を考え出すことは、原理的に言って殆ど不可能であるし、また無意味なことかもしれない。従って、各音名の不公平さや適用範囲を分かった上で、各自の学びたい音楽向けの音名を用いるということで、妥協するしかない。

このサイトでも、仕方なく、既に普及しているヨーロッパ流の音名たちを中心に用いる。

(つづく)


(最終更新2011.11.25)

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