代音唱法の考察

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音高・音律・音名(5)

日本国内における、音名の状況について。

幾種類もの音名

現代の日本で主に使われている音名は、ヨーロッパ流の音名である。しかし、こちらでも述べたように、ヨーロッパ流の音名にもいろいろな方式がある。日本では、主にそのうちの4種類が、平行して用いられている。

「ハニホヘトイロ」の「イロハ式」は、日本独自ながら、学校教育で公式に用いられる方式。イロハ順は日本古来の文字順であり、それぞれの前に付く「変」や「嬰」も、ヨーロッパ音楽伝来以前からの音楽用語である。一般には「ハ長調」「イ短調」などの調名として使われる機会が一番多いのではなかろうか。「ト音記号」「ヘ音記号」といった音部記号名にも含まれている。

「CDEFGAB」(読み方はスィー・ディー・イー……)の「英語式」は、ポップスやジャズなど、英語圏の影響が強い音楽分野を中心に、様々な分野で広く用いられている。特に「Am」「G7」など和音の名前であるコードネームは、英語式を基礎にしている。

「CDEFGAH」(読み方はツェー・デー・エー……)の「ドイツ語式」は、ドイツ語圏の影響を強く受けたクラシック界で使われている。派生音を呼ぶのに「Fis(フィス)」「Es(エス)」などと簡潔に言える点が特長で、単音を列挙するのに適している。

「ドレミファソラシ」の「イタリア風ドレミ式」は、固定ド音名唱教育を主唱する先生方によって、音楽専門の教室や学校で普及してきた。この方式は、音名唱法として優れているが、移動ド階名唱と衝突する。階名唱には移動ド以外の有力な方式がないため、固定ド音名唱は階名唱教育を困難にさせるとして、階名唱を重視する先生方からは指弾されている。

このように、古来の音名(律名)が伝統邦楽のみとなっている一方、各国から移し入れたり、その日本版を作ったりということで、日本国内には、分野や用途ごとに各種の音名が乱立気味となっている。

整理の必要性

他国の現状には明るくないが、細分すれば何種類あるか分からない数の流儀が共存し、有力なものをまとめても上記の4種の方式がある状況は、おそらく複雑な方だろうと思う。この複雑さはまず、音楽教育における負担という面で、好ましいことではないだろう。そして、意思疎通の場においても、どの方式ならばその場の他の人たちに通じやすいか、目の前にいるあの人ならばどの方式で言ってくるだろうか、多少なりとも意識しなくてはならない。

例えば私ならば、最も自然に使う音名はドイツ語式である。それに対し、イタリア風ドレミ式は、理解はできるものの、その場の人たちがそれでないと分からない場合以外は、自分からは言わない。そういう音楽文化の差が、国内に存在するのである。しかし、同じ国の中で、専門用語でマルチリンガルにならなくてはならない必然性はない。

加えて、階名唱教育そのものを困難にする、ドレミ系音名の存在は厄介である。これを推進する人たちの中には、階名唱を不要と考える人たちもいるだろうし、もし導入に必要ならば数字系の階名を用いればいいと考える人もいるだろう。また、固定ド音名唱を通じて絶対音感に秀でていたり、移動ドの実践経験に乏しいことによって、移動ド階名唱の有難みをあまり感じていない人たちがいる。階名唱に有難みを感じず、ドレミは音名唱に用いるのがよいと感じ、音楽を聴けば音名としてのドレミで聞こえる、相当数の専門家たちとの利害調整ということになるだろう。

まず、かつての文部省からの筋を通して、ドレミを音名としては使わないことにするなら、イロハ式音名やドイツ語式音名等は音名唱に適するのか。ドレミほど適さないとしても、我慢して使うことができるのか。できないとして、歌いやすく改変する工夫や、別の音名を開発して導入することは考えられないのか。

そしてまた、もしもドレミを主に音名として用いるなら、階名は何で表すか。少なくとも階名という概念は知られる必要があるだろう。そして、それを使った階名唱は必要なのか、そして可能なのか。あるいは、ドレミを音名にも階名にも同等に使いながら、なおかつ教育上や実践上の混乱を回避する工夫ができるのか。様々な方向性を考える必要があるように思う。


(最終更新2011.11.26)

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