代音唱法の考察

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音度・旋法・音度名(6)

ドレミは、日本において最も正式には「階名」(移動ド)であり、用法として「音名」(固定ド)も知られているが、実は「音度名」の側面も持っている。

ドレミの音度名性

階名としてのドレミの音度名性

ドレミが発明された当時の原型は、音節が6個であったから、音名にも、旋法の構成音にも、一対一対応することができず、従って、音名や音度名の性質を帯びることができなかった。発明から500年余り、音程の大小を測るだけの純粋な階名として機能していた。

ところが、7個目の音節が追加されたことによって、状況が一変する。それまでは、転調なしにオクターヴを歌うだけで、読み替え(ムタツィオ)が必要であったのに、その必要がなくなったのである。

そのことにより、それまで「A,B,C...」でのみ呼ばれていた音名も、個数が揃ったことでドレミで置き換えることができるようになり、歌い易さのためにそうする国々も現れた。固定ド音名唱である。他方で、それまでの階名唱のルールの延長で、いわゆる長音階の主音をド、短音階の主音をラと定めて、同じ旋法の構成音が続く限り読み替えしない方法での階名唱をする国々も現れた。7音節式の移動ド階名唱である。

7音節式移動ド階名唱は、それまでの階名唱と比べて、単に読み替え(ムタツィオ)の煩わしさが少なくなっただけではない。各旋法の途中で読み替えをする必要がなくなったことで、階名が旋法の構成音に一対一対応するようになったことから、階名に音度名の性格を帯びさせることができるようになったのである。例えば、長音階の属音は必ずソ、というように。

7音節式移動ド階名唱を含む音楽教育メソッドは、19世紀から20世紀にかけて工夫が重ねられ、普及が図られたが、この種の教育メソッドそして代表的なものであるトニック=ソルファ法においても、コダーイ=メソッドにおいても、階名の各音節は、各旋法の中での性格や精神的効果と結び付けて教えられたことが知られている。例えば、「ド(Doh)」は、長調の主音として、強い、あるいは不動の音であり、ミ及びソとともに主和音(D和音)を構成する(トニック=ソルファ法の場合)、といった具合である。階名の手話であるハンドサインも、こうした性格や効果と関連させて考案されている。

従って、移動ド階名唱の効用は、単に階名として旋律の音程を把握する役に立つだけでなく、音度名の性格を帯びて、旋法内の各音の性格を把握する役にも立つところにある。固定ド音名唱との効用の対比で言えば、むしろ後者に重点が置かれるということになる。

用法が階名でありながら音度名性を帯びさせられるのは、近代西洋音楽で重要な旋法の相が、いわゆる長音階と短音階の2種類しかなく、階名の役割もその2種類の場合を覚えれば済む、という事情もあった。南インド古典音楽のように、基本的な旋法の相が72種類もあるというのでは、こうはいかない。ただ、音度名性の方が大事というのなら、ドレミも音度名として使ってしまおう、という発想も生まれて当然なのである。

音度名としてのドレミ

移動ド階名唱と同じように移動ドと括られることが多いので、一見判別しがたいが、ドレミを音度名唱に用いる方法(移動ド音度名唱/同主調読み移動ド)は、既に行われている。階名が音度名に移行した例としては、インド古典音楽の場合も、そして日本古典音楽の場合も同じであって、特殊なことではない。

作曲家・指揮者の佐藤賢太郎氏の提唱する佐藤メソッド(佐藤賢太郎氏のサイトへ)のソルフェージュ音節セットは、固定ドにも移動ドにも使用可能なものであるが、佐藤氏は、その両方で練習すること、そして移動ドのときには私の言うところの音度名唱として用いることを推奨している。

他の場合も、長音階でも短音階でも主音を「ド」と読み、少なくとも自然短音階の「ミ・ラ・シ」用に長音階とは違う読み方(―半音低いのだから―)を用意してあるならば、その移動ドは音度名唱である。具体的数値は分からないが、移動ド音度名唱の利用はかなり広まっているとみられる。和声理論との整合性が高いため、その視点からの導入が多そうである。

移動ド音度名唱への私の立場

移動ド音度名唱に対しては、私は、固定ド音名唱に対するのと同じことを言いたい。

即ち、同じドレミを様々な用法で用いると、コトバの混乱が理解の混乱を引き起こすことは既に明らかであるのに、なぜわざわざそうするのか、と。

私たち日本の伝統音度名は、五音音階が基本形であったために5個の音度名しかないが、最も古くから音度名唱を行っていたインド音楽では、七音音階が基本形であるから7個の基本音節があり、すぐに西洋音楽にも適用できる。ならば、ドレミにこだわる必要性はない、というのが私の立場である。


(最終更新2012.2.19)

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