声楽と音度名唱

 ※音度名唱「拡張移動サ」の全体を概観するには、拡張移動サ音度名表をご覧ください。

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移動サでのインド旋法

このサイトで移動サを旋法の表記に使うことを説明したので、早速、インド古典音楽の旋法を紹介してみたいと思う。移動サそのものについては、この表を見ていただきたい。なお、ここでインドの旋法を挙げるのは、「移動サ」の長所の一つを具体的に示すためでもある。

インド古典音楽の旋律関係の概念としては、「ラーガ」が特に有名で、実際、最重要な概念であるのだが、楽典全体から見ると、ラーガだけが浮いて存在しているのではない。背景には様々な理論があり、また歴史がある。ここで取り上げる「タート」や「メーラ」も、インドの楽典の中の重要な概念である。

10種類のタート(旋法骨格)

主に北インド音楽で使われる、バートカンデー法による、10種類のタート(旋法骨格)を挙げる。

これらは、旋律の雰囲気を代表する10種類の典型的なタイプで、様々なラーガがそのもとに分類される。必ずしも使われる音だけで分類されるわけではなく、ラーガの特徴が総合的に判断される。

なお、タート名は、そこに属する代表的なラーガの名と同じであるが、タート名としての意味合いはラーガとしての意味合いとは異なる。

番号 タート名 移動サ表記 連関・備考 相応するメーラ
1 ビラーワル サリグマパディヌ 長音階・五度圏♮ ディーラシャンカラーバラナム
2 カマージ サリグマパディニ 五度圏♭1←長音階から ハリカーンボージー
3 カーフィー サリギマパディニ 五度圏♭2 カラハラプリヤー
4 アーサーワリー サリギマパダニ 五度圏♭3=自然短音階 ナタバイラヴィー
5 バイラヴ サラグマパダヌ 五度圏外・ジプシー音階 マーヤーマーラヴァガウラ
6 バイラヴィー サラギマパダニ 五度圏♭4 ハヌマトーディー
7 カリヤーン サリグミパディヌ 五度圏♯1 メーチャカリヤーニー
8 マールワー サラグミパディヌ 五度圏♯2 ガマナーシュラマー
9 プールヴィー サラグミパダヌ 五度圏♯3 カーマヴァルダニー
10 トーディー サラギミパダヌ 五度圏♯4 シュバパントゥヴァラーリー

※8,9,10,では、本来シャープ系起源の音程を、骨格となる主音・属音を残すために音度を変更し、フラット系に読み替えている音がある。例えば10のトーディーは「サシル(グ)ミパピ(ディ)ヌ」からの読み替え(丸括弧内の2音は省略)。
 一見すると非常に奇妙な旋法に見えるが、アチャラ=スヴァラである「サ」と「パ」を除くと、非常に一般的な陽類に相当するペンタトニックが残ることは共通している。ドレミの「ドレミソラ」に相当するのは、8,では「ディヌラグミ」、9,では「グミダヌラ」、10,では「ヌラギミダ」となる。

72種類のジャナカ=メーラ(親旋法)

ペンタコード・テトラコードの順列組み合わせをする、「72メーラカルター」という旋法生成理論によって、72種類の「ジャナカ=メーラ」即ち「親旋法」を列挙する。

前半1~36番までのメーラーを「シュッダ=マディヤマ=メーラ」と呼び、後半37~72番までのメーラーを「プラティ=マディヤマ=メーラ」と呼ぶ。前者の第4度音は「マ」、後者の第4度音は「ミ」で、後者の方がシャープ系の旋法である。旋法構成のうち低い方にあたるペンタコード・テトラコードの種類によって、メーラは6種類ずつ、12個の「チャクラ」というグループに分けられ、各チャクラにもその順序を想起させる名前がついている。

各親旋法のもとに、それらから派生したとみなされる子旋法(ジャニヤ=メーラ)が配属される。実践上、子旋法を一つも持たないものから、数十種持つものまで、親旋法の重要度はまちまちである。

72種類の名称はそれぞれ、サンスクリットでの語義を持ち、しかも、語頭から2つの音節に含まれる子音が表象する数字によって、名称を覚えればその順番を思い出せるように作られている。子音が数字を表象するというのは、例えば数字「1」を表しうるのは、「k」「#t」「p」「y」の4つの子音であり、「6」を表しうるのは「c」「t」「#s」の3つである。また、チャクラ名も、インドの常識、特に宗教的な面から、その順序の数が連想できるような名前となっている。

なお、この72種類でも、インド古典音楽の全ての旋法を網羅できるわけではない。私個人は、さらに36種類を追加して親旋法を108種類に拡張する仕組みも作っている(追加の旋法名も勝手に命名している)し、更に462種類への拡張も用意してあるが、それでもなお網羅できてはいない。

番号 メーラ名 移動サ表記 チャクラ名 相応するタート
1 カナカーンギー サラガマパダナ インドゥ  
2 ラトナーンギー サラガマパダニ  
3 ガーナムールティ サラガマパダヌ  
4 ヴァナスパティ サラガマパディニ  
5 マーナヴァティー サラガマパディヌ  
6 ターナルーピー サラガマパドゥヌ  
7 セーナーヴァティー サラギマパダナ ネートラ  
8 ハヌマトーディー サラギマパダニ バイラヴィー
9 デーヌカー サラギマパダヌ  
10 ナータカプリヤー サラギマパディニ  
11 コーキラプリヤー サラギマパディヌ  
12 ルーパヴァティー サラギマパドゥヌ  
13 ガーヤカプリヤー サラグマパダナ アグニ  
14 ヴァクラーバラナム サラグマパダニ  
15 マーヤーマーラヴァガウラ サラグマパダヌ バイラヴ
16 チャクラヴァーカム サラグマパディニ  
17 スーリヤカーンタム サラグマパディヌ  
18 ハータカンバリー サラグマパドゥヌ  
19 ジャンカーラドヴァニ サリギマパダナ ヴェーダ  
20 ナタバイラヴィー サリギマパダニ アーサーワリー
21 キーラヴァーニー サリギマパダヌ  
22 カラハラプリヤー サリギマパディニ カーフィー
23 ガウリーマノーハリー サリギマパディヌ  
24 ヴァルナプリヤー サリギマパドゥヌ  
25 マーラランジャニー サリグマパダナ バーナ  
26 チャールケーシー サリグマパダニ  
27 サラサーンギー サリグマパダヌ  
28 ハリカーンボージー サリグマパディニ カマージ
29 ディーラシャンカラーバラナム サリグマパディヌ ビラーワル
30 ナーガーナンディニー サリグマパドゥヌ  
31 ヤーガプリヤー サルグマパダナ リトゥ  
32 ラーガヴァルダニー サルグマパダニ  
33 ガーンゲーヤブーシャニー サルグマパダヌ  
34 ヴァーガディーシュヴァリー サルグマパディニ  
35 シューリニー サルグマパディヌ  
36 チャラナータ サルグマパドゥヌ  
37 サーラガム サラガミパダナ リシ  
38 ジャラールナヴァム サラガミパダニ  
39 ジャーラヴァラーリー サラガミパダヌ  
40 ナヴァニータム サラガミパディニ  
41 パーヴァニー サラガミパディヌ  
42 ラグプリヤー サラガミパドゥヌ  
43 ガヴァーンボーディー サラギミパダナ ヴァス  
44 バヴァプリヤー サラギミパダニ  
45 シュバパントゥヴァラーリー サラギミパダヌ トーディー
46 シャドヴィダマールギニー サラギミパディニ  
47 スヴァルナーンギー サラギミパディヌ  
48 ディヴィヤマニ サラギミパドゥヌ  
49 ダヴァラーンバリー サラグミパダナ ブラフマ  
50 ナーマナーラーヤニー サラグミパダニ  
51 カーマヴァルダニー サラグミパダヌ プールヴィー
52 ラーマプリヤー サラグミパディニ  
53 ガマナーシュラマー サラグミパディヌ マールワー
54 ヴィシュヴァーンバリー サラグミパドゥヌ  
55 シャーマラーンギー サリギミパダナ ディシュ
(ディク)
 
56 シャヌムカプリヤー サリギミパダニ  
57 スィンヘーンドラマディヤマム サリギミパダヌ  
58 ヘーマヴァティー サリギミパディニ  
59 ダルマヴァティー サリギミパディヌ  
60 ニーティマティー サリギミパドゥヌ  
61 カーンターマニー サリグミパダナ ルドラ  
62 リシャバプリヤー サリグミパダニ  
63 ラターンギー サリグミパダヌ  
64 ヴァーチャスパティ サリグミパディニ  
65 メーチャカリヤーニー サリグミパディヌ カリヤーン
66 チトラーンバリー サリグミパドゥヌ  
67 スチャリトラー サルグミパダナ アーディティヤ  
68 ジヨーティスヴァルーピニー サルグミパダニ  
69 ダートゥヴァルダニー サルグミパダヌ  
70 ナースィカブーシャニー サルグミパディニ  
71 コーサラム サルグミパディヌ  
72 ラスィカプリヤー サルグミパドゥヌ  

<参考>36種類のプラティローマ=メーラ(逆行旋法)

私が追加した、36種類のプラティローマ=メーラ(逆行旋法)を列挙する。

その名のとおり、属音(パ)を持たず下属音(マ)のみを持ち、下降の音形を代表として提示される、超フラット系(長音階から見てフラット5つから9つ)起源の旋法たちである。これらについて、メーラ名やチャクラ名も、先行する正式な72のジャナカ=メーラの続きとして、なるべく名前から順序を連想できるように考えて命名した。

古代の最初期にそうだったように、長音階の代わりに、カーフィー(カラハラプリヤー)を中立の代表旋法と考えるならば、これらプラティローマ=メーラが入ることで、シャープ/フラット対称となる。(また、数的に、インドにおける完全数の一種となり、仏教の煩悩の数とも等しくなる。)

番号 メーラ名 移動サ表記 チャクラ名
73 ガータカヴィーティー ヌドゥポマグルサ ドヴィ―パ
74 ガサマルディニー ヌドゥポマグリサ
75 マサーラーンギー ヌドゥポマグラサ
76 チッチャクティパーリカー ヌドゥポマギリサ
77 サスィヤマーリニー ヌドゥポマギラサ
78 ハーサヴァティー ヌドゥポマガラサ
79 ダースィダルニー ヌディポマグルサ マヌ
80 ナーデーシュヴァリー ヌディポマグリサ
81 ヨージャナラリター ヌディポマグラサ
82 ラージャターヌヴィター ヌディポマギリサ
83 バダラパーチャニー ヌディポマギラサ
84 ヴァジュラスターニニー ヌディポマガラサ
85 メーハナカーミニー ヌダポマグルサ パクシャ
86 テージャスヴァティー ヌダポマグリサ
87 サダーカーリニー ヌダポマグラサ
88 ダーハプレーマー ヌダポマギリサ
89 ディードーッタマー ヌダポマギラサ
90 ナッダナーギー ヌダポマガラサ
91 ピダーナドゥーシャニー ニディポマグルサ カラー
92 ラーダーヴァティー ニディポマグリサ
93 ボーディヤンギー ニディポマグラサ
94 ヴァドゥーシャーンター ニディポマギリサ
95 マドゥラバーシニー ニディポマギラサ
96 トリダーマニー ニディポマガラサ
97 スィッディカリー ニダポマグルサ プリトヴィー
98 ダディクリヤー ニダポマグリサ
99 ディーダーラニー ニダポマグラサ
100 ナナーカーリカー ニダポマギリサ
101 パヌクシャリー ニダポマギラサ
102 カーナパーニニー ニダポマガラサ
103 レーナプラヴァリー ナダポマグルサ プラーナ
104 ガナパダヴィー ナダポマグリサ
105 シャニカーンター ナダポマグラサ
106 チャーナーパーチカー ナダポマギリサ
107 サーヌクラミター ナダポマギラサ
108 ディナパトニー ナダポマガラサ

(最終更新2011.11.5)

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