声楽と音度名唱

 ※音度名唱「拡張移動サ」の全体を概観するには、拡張移動サ音度名表をご覧ください。

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拡張移動サの仕組み(5)

第3段階では、2つの別々の目的に応じた、合計9つの追加音度子音を追加する。

即ち、8つ以上の音度を持つ多音度音階への対応と、半音の半分である四分音を単位とした音程を持つ音階への対応が、その目的である。現代日本の音楽教育の基礎となっている、西洋クラシックや日本のポップスからすれば、いずれも、標準とは言い難い音楽であるが、世界の音楽シーン全体から見れば、十分な存在感を持っている。

第3段階-A:多音度音階への対応(5つの追加音度)

第3段階-Aでは、子音は7種類から5種類増えて12種類となる。

・子音:S,R,G,V,Ch,M,Th,P,Dh,N,X,J

・母音:$R,O,A,I,U,E,$Ai

追加された5つの子音「V,Ch,Th,X,J」に、5つの母音「E,O,A,I,U」を組み合わせることにより、計25個の音度名が追加される。音度の順序は、上の太字の行の配列通りである。

  -E(-2) -O(-1) -A(±0) -I(+1) -U(+2)
J svara ジェ(je) ジョ(jo) ジャ(ja) ジ(ji) ジュ(ju)
X svara ヘ(¥ke) ホ(¥ko) ハ(¥ka) ヒ(¥ki) フ(¥ku)
Th svara テ(#the) ト(#tho) タ(#tha) ティ(#thi) トゥ(#thu)
Ch svara チェ(che) チョ(cho) チャ(cha) チ(chi) チュ(chu)
V svara ヴェ(ve) ヴォ(vo) ヴァ(va) ヴィ(vi) ヴ(vu)

但し、実用的なのは母音「A」を持った「ヴァ・チャ・タ・ハ・ジャ」の5つである。それらを用いることで、12半音階を、全て母音「A」のまま子音だけを変えて表現することができる。即ち、12個の半音を全て対等に幹音として扱うという意味であり、12音技法の音楽を歌うにはこの音度名が用いられる。

基準音 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 +8 +9 +10 +11
ヴァ チャ ジャ

音度が7つでは足りない、頻繁かつほぼ対等に用いられる音高が8つ以上ある音階の場合に、これら追加音度子音の1つ以上を用いる。そういう事情であるから、各追加音度子音が音階において「第何度音」であるかは、前もって決まっておらず、用いられた場合の高低順序関係と、母音「A」が付けられたときの「サ」からの標準音程とが決められている。

つまり例えば、<「V svara」と「Ch svara」が追加されうるのは、「G svara」と「M svara」の間であり、なおかつ「V svara」より「Ch svara」の方が高く「M svara」に近い音である。そしてもし「V svara」が「ヴァ」ならば「ガ」より半音高く、「Ch svara」が「チャ」ならば「マ」より半音低い。>というのがルールである。

どの追加音度子音を追加するか、ということに関しては、次の原則に依る。

・7つの基音音度子音を使い切ってから追加音度子音を加える。(大原則)

・音度子音はなるべく母音「A」とともに用いられるようにする。

・母音「A」にするべき優先順は、S→P→M→R→Dh→G→N∥→V→X→Ch→J→Th。(弱い規則)

例えば、音程が基準音から上方に「全・半・全・半・全・半・全・半」となる8音旋法(移調の限られた音階の一つである「コンビネーション・オブ・ディミニッシュト・スケール」上にある旋法)の場合は、
「サリギマポダナジャサ」のようにジャを加える。

母音が「A」以外で、これらの追加音度名が使われるのは、楽曲内での一時的な転調、または完全な転調時の過渡的な読み方の中でのみである。

第3段階-B:四分音への対応(4つの追加音度)

第3段階-Bでは、子音はさらに4種類増えて16種類となる。

・子音:S,R,Bh,G,V,Q,Ch,M,Th,P,Dh,Z,N,X,Y,J

・母音:$R,O,A,I,U,E,$Ai

追加された5つの子音「Bh,Q,Z,Y」に、5つの母音「E,O,A,I,U」を組み合わせることにより、計20個の音度名が追加される。「A」を加えた基準音の高低順は、上の太字の行の配列通りであるが、音度の順序がこの通りの配列になるとは限らない。

  -E(-2) -O(-1) -A(±0) -I(+1) -U(+2)
Y svara(中ⅶ度基準) イェ(ye) ヨ(yo) ヤ(ya) イィ(yi) ユ(yu)
Z svara(中ⅵ度基準) ゼ(ze) ゾ(zo) ザ(za) ズィ(zi) ズ(zu)
Q svara(中ⅲ度基準) ケ(&ke) コ(&ko) カ(&ka) キ(&ki) ク(&ku)
Bh svara(中ⅱ度基準) ベ(bhe) ボ(bho) バ(bha) ビ(bhi) ブ(bhu)

これらは、半音の半分の音程幅、四分音単位での音程を持つ音階・旋法用の追加音度名である。

半音単位の音度名が、12個の音度子音を持ち、72種類もあるのに対し、それらの全ての間にありうるはずの四分音単位の音度名は、わずか3分の1以下の、20種類しかない。従って、本来の音度順と異なる位置関係の音度名でも、幅広く代用して用いられる。四分音単位の音度名では、半音単位の音度名にあった対称性や規則性の多くは守られておらず、あくまで補足的なものとしての扱いとなっている。

四分音音階を表記すると、例えば次のようになる。

基準音
0.5


1.5


2.5


3.5


4.5


5.5


6.5


7.5


8.5


9.5

10

10.5

11

11.5
ディ イィ

四分音単位の音度名用の、4つの追加音度子音は、7音音階で「長短系」に属する音度、即ち、ⅱ度・ⅲ度・ⅵ度・ⅶ度に対応し、それぞれ中ⅱ度・中ⅲ度・中ⅵ度・中ⅶ度という中立音程を基準音程(=母音「A」)としている。母音変化は、そこからの半音単位での音程変化を表す。従って、母音変化した結果の各音度名も、主音「サ」から四分音単位の音程を表している。

これらの音度名を使うかどうかの基準は、主音から12平均律で半音を割った音律を仮定して、そこから実際の音階や旋法が、概ね六分音以上(数値的には35セント以上)差異があるかどうかで決める。即ち、半音単位の音度名の方が、四分音単位の音度名より、許容される誤差の幅が倍以上も広いことになる。

四分音単位の音度名は、多音度音階用の音度名と違って追加ではなく、対応する音度の基本音度名としばしば交替する。即ち、例えば長ⅲ度の「グ」や短ⅲ度の「ギ」に代わって、中ⅲ度の「カ」が使われ、音度子音「G」がその楽曲では使われないということがある。別の表現をすると、ⅲ度の音度子音は、「G」と「Q」でセットだということである。同様に、ⅶ度の音度子音も、「N」と「Y」でセットであるし、ⅱ度もⅵ度も同じである。

ところが、そうとは言い切れないのは、四分音単位用の音度子音を持たない音度、例えばⅳ度やⅴ度であるが、それらの四分音単位の変位にも、ⅱ度・ⅲ度・ⅵ度・ⅶ度の四分音単位用の音度子音を流用するのである。

例えば「マ」が四分音1つ分上昇したとき、使われる音度名は「ク」である。M svaraに対しても、「Q」が代用されることがありうるのである。従って、Q svaraの上に隣接する音度名は、M svaraであることも、P svaraであることもありうるし、ひょっとするとTh svaraであるかもしれない。

さらに言えば、ⅲ度にもⅳ度にも同時に「Q」が代用されるかもしれない。その場合には、一つの旋法の異なる幹音の音度名に同じ子音が使われ、子音からは音度の関係が読み取れないことになる。

実用上から言えば、一つの旋法に四分音単位の音度名が出てくるのは2つか3つまでが通常であるから、音度子音が4つしかなくても十分に混乱せずに用いることができる。


四分音用音度名子音の5つ目

※ しかし、完全ⅴ度である「パ」音への下からの狭い導音が、中ⅵ度からの変化音「ゼ(ze)」であり、そのために音度数がしばしば逆転されるのは、幾分気持ちが悪い。そのことを解消するため、5つ目の四分音用音度子音を追加することもできる。

その音度子音は「F」であり、派生するものを含めた音度名は「F Svara」と呼ぶ。「フェ(fe)」(縮ⅳ度)・「フォ(fo)」(伸ⅳ度)・「ファ(fa)」(伸増ⅳ度)・「フィ(fi)」(伸重増ⅳ度)の4つの音度名で、これらがあることにより、四分音用の音度名が24個になって、配置もちょうど二重の異名同音関係になる。F Svaraの音度名は、実際の音度名唱では、ワ行音の発音になってもよい。「ファ/ワ」が、F Svaraのうちで最も多用され、「パ」音に対して、「サ」に対する「イィ」に相当する役割を果たす。


(最終更新2010.8.4)

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