声楽と音度名唱

 ※音度名唱「拡張移動サ」の全体を概観するには、拡張移動サ音度名表をご覧ください。

大歓喜トップ >> 声楽と音度名唱 >> 拡張移動サの実践(4)

拡張移動サの実践(4)

音階練習

知っている曲を拡張移動サで歌うことに慣れたら、次は、拡張移動サ独自の機能を身につけていくことになる。その入り口は、拡張移動サによる音階練習である。

「移動ド階名唱」などでドレミだけに馴染んでいる人が、インド古典音楽などを聞いて「覚えにくい」と感じることは当然であって、それはその音楽に当てはまる言葉を持っていないからである。ディアトニック音階以外の音階に属する旋法を、拡張移動サ音度名で幅広く歌い慣れることによって、より多様な音楽への対応を図ることができる。

半音階と四分音階

半音が連続する音型は、ディアトニック音階や日本の五音音階に慣れている人の多くが苦手であるが、半音連続を「サラリギグマミパダディニヌの拡張移動サ音度名を使って、オクターヴの範囲で昇降練習する。少し慣れれば、きちんとオクターヴ上のサに収まって昇降できるはずである。

四分音を使う音楽に興味のある人は、「サボラバリコギカグキマクミゼパゾダザディヨニヤヌイィを使って、同様に昇降練習を行う。これも、四分音進行が感覚で分かる程度にはすぐに慣れるものと思う。(なお、この音度名のうち、「ク」と「ゼ」を、それぞれ「フォ」と「ファ」に替えて歌ってもよい。)

72のジャナカ=メーラと36のプラティローマ=メーラ

ディアトニック音階に関わらず、多様な音階を使えるものから効率的に覚えるために、72種類のジャナカ=メーラ36種類のプラティローマ=メーラ、合わせて108種類のメーラの昇降練習をする。各メーラの音度名は、リンク先を参照いただきたい。

ごく最初のうちは「サ」から「」までのオクターヴの音域で練習する。そして次は、実際の音楽に即するため、72種のジャナカ=メーラについて、「サ」から下方の「P=スヴァラ」までの昇降を加える。これによって、ヨーロッパの教会旋法の音型も、自然にその中に含まれていることになる。続いてさらに、プラティローマ=メーラについて、「」から上方の「M=スヴァラ」までの昇降も加える。

慣れたら、各自の無理なく歌える範囲にさらに音域を拡大する。私自身は普段、Eからe2までの約3オクターヴを目安に歌っている。

この練習には長く時間がかかるので、状況によって省略するときは、10種類のタートだけに絞るとよい。それだけでも、バランスのとれた核心部分の練習ができる。

屈曲を加える(クータ=ターナ)

音階練習は、ただ直線的に昇降するだけでなく、実際に即して屈曲を加えた進行の練習も行う。即ち、「サラガマパダナ」(メーラ=カナカーンギー)に対して、「サガラ、ラマガ、ガパマ、マダパ……」と進んだり、「サマガラ、ラパマガ、ガダパマ、マナダパ……」と進んだり、ピアノで言えばハノンの運指練習のように、楽曲に使われそうな進行を可能な限り思い起こしてソルフェージュする。

五音メーラ(アウダヴァ=メーラ)の練習

多くの人にとっては、五音旋法(五音音階)も七音旋法(七音音階)に匹敵するくらい重要である。七音旋法の省略と考えればいいからいいや、というのではなく、5つのスヴァラだけを使った練習を、独立して行った方がよい。

七音メーラ(サンプールナ=メーラ)の代表が、ド旋法(長音階)と相似のメーラ=ディーラシャンカラーバラナム「サリグマパディヌ」であるとすれば、五音メーラ(アウダヴァ=メーラ)の代表型は、日本民謡で最多数派の陽類レ旋法と相似の「サリマパニ」(ラーガ=マドゥマード=サーラングなどが属する。メーラ=パディヤーンシャ)であって、それを歌うだけでも練習として価値がある。

余裕があれば、六音メーラ(シャーダヴァ=メーラ)、八音メーラ(ラサグナ=メーラ)という、偶数個のスヴァラを持つメーラも練習すると良いだろう。九音メーラ(ジヨーティールーパ=メーラ)を日常の唱法で扱うメリットは、特にないと思われる。


(最終更新2012.3.21)

大歓喜トップ >> 声楽と音度名唱 >> 拡張移動サの実践(4)