声楽と音度名唱

 ※音度名唱「拡張移動サ」の全体を概観するには、拡張移動サ音度名表をご覧ください。

大歓喜トップ >> 声楽と音度名唱 >> 拡張移動サの実践(1)

拡張移動サの実践(1)

既存の音感の移入

はじめに

何らかの音楽経験がある人ならば、その音感を拡張移動サでの音度名唱においても活用しない手はない。乳幼児を除いて、大概の現代日本人は多少なりとも「ドレミ」と結び付けて音楽を学んだ経験を持っているのだから、その音感を拡張移動サにも引き継ぎたいところである。

もちろんそれは、あなたが拡張移動サを有意義だと思ったなら、ということである。この代音唱法は、普及していないので、あなたの周りに仲間はいないだろうし、将来ともに変人・異端者扱いされるだろう。普通に音楽を学んでいく上においては、不必要な寄り道である。その割に、かなり多くの時間を費やさないと何の果実も得られない。そのことを弁えたうえで、この実験に加わっていただきたい。

既存の音感を拡張移動サに移入するためには、何よりまず、既に知っている曲を、短い曲や音域の狭い曲を手始めに、拡張移動サの音度名に直して歌っていくことである。方法としては「移動ド」の要領で、まず長音階について、「ドレミファソラシド」の代わりに「サリグマパディヌサ」を、また、自然短音階について、「ラシドレミファソラ」の代わりに「サリギマパダニサ」を当てはめて歌っていけばよい。「『ドレミ』は固定ド(音名唱)に結びついているんだよなあ」という方も、拡張移動サがそれと混同することはないはずなので、あくまで主音を「サ」として歌ってみていただきたい。

下の楽譜は、R.ロジャース作曲の、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の中の一曲、「ドレミの歌」の主要部分の旋律(ハ長調に移調)に、拡張移動サの音度名を振ってみたものである。基本は長音階であるが、音度名は、サ・リ・グ・マ・パ・ディ・ヌの7種の他に、臨時記号の付いた音であるミ・ピ・ニを合わせた計10種が登場している。

ドレミの歌

子供向けの唱歌やソルフェージュから、懐かしの流行歌まで、いろいろな歌を拡張移動サで歌うことで、ドレミの代わりに拡張移動サで歌っても違和感なく音が取れるようになってくる。その要領は、外国語の習得と同じである。音名・階名・音度名も、あくまでコトバであり、音高や音程や調性の感覚と結び付いているだけなのであるから。慣れるまでは、どんどん楽譜に書き込みもしてみよう。初めのうちは「『サ』なんていう柔かい発音では、曲が終わるどっしりした感じがしないよ」などと思われるかもしれないが、それも慣れの問題である。

それと同時に、もしそれまでに幹音のみの代音唱法しか行っていなかったとすれば、様々な派生音を意識して歌い分ける感覚を覚えるようになる。拡張移動サは、多くの音度名を持つため、途中でどう転調しても読み替えなしに歌いきることも可能なので、読み替えの度合いを調整して幾通りも歌ってみることで、楽曲についての新たな感覚に結び付くこともある。特に、主音が変わらないまま途中で短調と長調が入れ替わる曲の場合は、拡張移動サでは読み替えなしが当たり前なので、新鮮さが大きいかもしれない。


(最終更新2010.6.3)

大歓喜トップ >> 声楽と音度名唱 >> 拡張移動サの実践(1)